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The Times They Are A-Changin' 1964

アルバム・コメント 

Side A
1. The Times They Are A-Changin'
2. Ballad Of Hollis Brown
3. With God On Our Side
4. One Too Many Mornings
5. North Country Blues

Side B
1. Only A Pawn In Their Game
2. Boots Of Spanish Leather
3. When The Ship Comes In
4. The Lonesome Death Of Hattie Carroll
5. Restless Farewell

 

 

 

 

 

 

 このアルバムを好きだという人は結構多いようで、実際にエリック・クラプトンなどはあるインタビューで「ディランの中で最も重要なレコード」だと言っています。

 社会的なメッセージに満ちた曲が多く、一般的にはディランによるプロテスト・フォークの完成された形と言われていて、同じ意味でしょうが個人的には、ディランのヒューマニズム(博愛精神)が結実した非常にまとまりのある質の高いアルバム、と受けとめています。一言でいうなら、誠実さ、でしょうか。

 音楽的にも、アメリカのさまざまな伝承音楽のメロディを感じさせて、懐が深い一枚であるようにも思います。またレコードのライナーで中村とうよう氏が「このアルバムでの歌い方は、ディランのすべてのアルバムの中でも最高度の誠実さと繊細さを示している。世に自作自演のレコードというものは数多いけれども、このくらい作品と歌唱が完全にひとつのものになっている例は少ないだろう」と書いていて、珍しく的を射た評ですが(^^)、私もそれに同意します。

 私はフォーク時代のディランから入っていったので、ディランの真摯な「語り口」がとにかく好きでした。おそらく電話帳を歌っていたとしたも、心地よく聴いていたことでしょう(^^) このアルバムでも Ballad Of Hollis Brown や North Country Blues などの「語り部」としてのディランに惹かれていましたし、名曲 The Lonesome Death Of Hattie Carroll はいつ聴いても胸を打たれたものです。

 The Times They Are A-Changin' や With God On Our Side などは言わずもがなの名曲。When The Ship Comes In の力強い歌唱でいつも勇気を貰いましたし、ディランが「やっつけ仕事」と後に言っているほとんど無伴奏のような Restless Farewell なども大好きで、レコード歌詞の But It's not to stand naked under unknowin' eyes.... のくだりには何故か赤線を引いています。座右の銘だったのでしょう(^^)

 またここでは非常に素朴な形ですが、後のザ・バンドとのツアーでアレンジされ、ジョニー・キャッシュとも再演されたり「Hard Rain」のライブでも豪快に歌われ、その後も歌い継がれている柔軟性に富んだ哀愁の名曲 One Too Many Mornings も胸に沁みます。同じく切ないフェアウェル・ソングの Boots Of Spanish Leather は、やっぱり太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の原曲(元ネタ)でしょうか(^^)

 この頃のアウトテイクとしては、「Biograph」にメロディの魅力的な Percy's Song、賛美歌のような美しい歌詞の Lay Down Your Weary Tune が、「Bootleg Series vol.1-3」に Walkin' Down The Line / Walls Of Red Wing / Paths Of Victory / Talkin' John Birch Paranoid Blues / Who Killed Davey Moore ? / Only A Hobo / Moonshiner / When The Ship Comes In / The Times They Are A-Changin' / Last Thoughts On Woody Guthrie / Seven Curses / Eternal Circle / Suze (The Cough Song) といった大量の未発表曲、ライブ音源、初期の別テイクが収録されています。

 なかでも酒と薔薇と女の Moonshiner は個人的なお気に入り、そしてウディ・ガスリーに捧げられた長大なポエム・リーディングの Last Thoughts On Woody Guthrie はクラプトンが「ここにディランの人生のすべてが詰まっている」と絶賛した代物、ぜひお聴きあれ。

 また When The Ship Comes In / The Times They Are A-Changin' のピアノ弾き語りの初期テイクも、曲のエッセンスが剥き出しにされたような一聴に値する名演です。特に前者については作曲過程のとても興味深いエピソードが「Bootleg Series vol.1-3」のライナーにあるのですが、これも出来たら読んでみてください。

 

 

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Ballad Of Hollis Brown

 

 

ホリス・ブラウンは町はずれに住んでいた
ホリス・ブラウンは町はずれに住んでいた
妻と五人の子供を抱え 粗末な小屋で暮らしていた

 

仕事と日銭を求めて でこぼこ道を歩きまわった
仕事と日銭を求めて でこぼこ道を歩きまわった
子供たちは空腹のために 笑うことすら知らなかった

 

赤ん坊の目はどこか怪しく あんたの袖をひっぱる
赤ん坊の目はどこか怪しく あんたの袖をひっぱる
あんたは部屋中歩きまわり 一息ごとにどうしちまったのかと考える

 

鼠が小麦粉を囓り 雌馬に悪い血が混じった
鼠が小麦粉を囓り 雌馬に悪い血が混じった
誰か知り合いがいたなら 気にかけてくれたろうか?

 

どうか友だちを恵んでください、と天の神さまに祈った
どうか友だちを恵んでください、と天の神さまに祈った
だがあんたの空のポケットは 友だちはいないと告げている

 

赤ん坊の甲高い泣き声が あんたの脳味噌を乱打する
赤ん坊の甲高い泣き声が あんたの脳味噌を乱打する
細君の金切り声が 泥んこを叩きつける雨のようにあんたをえぐる

 

畑の草は真っ黒になり 井戸には一滴の水もない
畑の草は真っ黒になり 井戸には一滴の水もない
あんたは最後の一ドルで 七発の銃弾を買った

 

荒れ野のどこか遠くで 震えるようなコヨーテの鳴く声
荒れ野のどこか遠くで 震えるようなコヨーテの鳴く声
あんたの目は 壁に掛かったショットガンに釘付けになる

 

あんたの脳味噌は血を流し 足は立っていられない
あんたの脳味噌は血を流し 足は立っていられない
あんたは手にしたショットガンをじっと見つめる

 

七つの風が小屋の戸口のまわりを吹き抜ける
七つの風が小屋の戸口のまわりを吹き抜ける
七発の銃声が まるで砕ける浪のように響き渡る

 

南ダコタの農場で 七人が死んだ
南ダコタの農場で 七人が死んだ
どこか遠くの場所で 新たに七人が産まれた

 

 

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With God On Our Side

 

 

わたしの名前など どうでもいい
年齢もまた意味はない
いわゆる中西部と言われるところが
わたしの出身地
わたしはそこで教育を受け、躾られた
法は従うべきもの
そして わたしの住むこの国は
神が味方についている、と

歴史の本は教えてくれる
実に巧みに教えてくれる
騎兵隊が突撃し
インディアンたちは倒れた
騎兵隊が突撃し
インディアンたちは死んだ
この国は若くして
神が味方についていた

米西戦争の
時代もあり
南北戦争もまた
じきに過去のもの
英雄たちの名前を
覚えさせられた
かれらは銃を手にして
神が味方についていた

第一次世界大戦も
その運命に終止符を打った
戦いの理由は
必ずしも釈然としたものでなかったが
わたしは受け入れることを覚えた
誇りとともに受け入れる術を
神が味方についているときには
死者を数えたりしないものだ

第二次世界大戦が
終わりを迎え
わたしたちはドイツ人を赦し
かれらと友人になった
かれらは600万人を殺戮し
炉で焼いたのだが
いまはそのドイツ人にも
神が味方についている

生涯を通してずっと
ロシア人は憎めと教えられた
もし次の戦争が始まれば
わたしたちが戦うべき相手はかれらだ
かれらを憎み かれらを怖れ
逃げ そして隠れる
それらすべてを勇敢に受け入れよう
神が味方についているのだから

だがいまやわたしたちには
死の灰の武器がある
撃つことを余儀なくされたなら
撃たねばならない
ボタンのひと押しで
世界中を打ちのめす
神が味方についているときは
質問などしてはならないのだ

数知れぬ陰鬱な時間の中で
わたしはずっと考えていた
イエス・キリストは
くちづけで裏切られた
だが、わたしが代わりに考えることはできないから
きみが自分で結論を出すべきだ
イスカリオテのユダには
神が味方についていたかどうか

そろそろ立ち去るときが来た
わたしはひどく疲れ果てた
わたしの感じているこの混乱は
とても言い尽くせない
ことばは頭の中に溢れ
床にこぼれ落ちる
もし神が味方についているのなら
次の戦争を止めて下さるだろう

 

 

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One Too Many Mornings

 

 

通りのどこかで犬が吠え続け
日も次第に暮れていく
やがて 夜の帳が落ちたら
犬も啼きやむことだろう
そして静まり返った夜が
ぼくの心の中の響きで粉々になる
ぼくが辿ってきた千マイルと
一日だけ多すぎた朝のために

 

十字路を目の前にして
ふたりがいっしょに寝た
あの部屋をふり返りながら
ぼくの目はかすみ始める
ふたたび通りを見つめる
歩道と 標識
そしてぼくは千マイルと
一日だけ多すぎた朝を後にする

 

誰ひとりいいことはない
切なく落ち着かないこの気持ち
ぼくの言うなにもかも
きみもおなじように上手に言える
きみの立場からきみは正しいし
ぼくの立場からぼくは正しい
ぼくらはふたりとも 千マイルと
一日だけ多すぎた朝を過ごしてきたから

 

 

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Boots Of Spanish Leather

 

 

ああ、恋人よ わたしは船出する
朝には出港です
海の向こう わたしが降り立つところから
なにか贈って欲しいものはないかしら

 

いいや、恋人よ 贈って貰いたいものは何もない
欲しいものなどひとつもない
ただ あのさびしい海の向こうから
そのままのきみで帰ってきておくれ

 

でも何か素敵なものを あなたが欲しいのじゃないかと思って
マドリッドの山や
バルセロナの海岸から
金や銀でできたものを

 

いいや たとえ闇夜の星々や
深い海底のダイアモンドを持っていても
きみの甘いキスのためなら すべて捨ててしまう
ぼくが欲しいものは それだけなのだから

 

長いこと 行っていることになるかも知れないから
ただ聞いているだけなのよ
あなたが少しでも楽に過ごせるように
何かわたしの思い出になるようなものを贈れないかしら、と

 

ああ、いったいまたどうして そんなことが聞けるの?
ぼくを悲しくさせるだけさ
今日 きみにねだったおんなじものを
明日もまたきみにねだるに決まっている

 

あるさびしい日に
彼女の乗った船から 手紙が届いた
いわく“いつまた戻れるか分かりません
それはわたしの気分次第”

 

もしきみが、恋人よ そんなふうに思うのなら
きみの気持ちはさまよっている
きみのこころはぼくでなく
きみがこれから行く土地とともにある

 

では、気をつけて 西風に気をつけて
嵐の天候に気をつけて
そう 何かぼくに贈ってくれるというのなら
スペイン革のスパニッシュ・ブーツ、を

 

 

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When The Ship Comes In

 

 

時が到来しよう
風がやみ

 

 

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The Lonesome Death Of Hattie Carroll

 

 

ボルティモア・ホテルの社交界の集まりで
ダイアモンドの指輪をはめた指で杖を振り回し 
ウィリアム・ザンジンガーは哀れなハッティ・キャロルを殺した
警官が呼ばれ 凶器はとりあげられ
拘束の上 警察署へ運ばれ
第一級殺人罪でウィリアム・ザンジンガーは告発された
だが あらゆる恐怖を論評し 恥辱を論理づけるあなたよ
顔からハンカチをはなしなさい
いまはまだ泣くときではない

 

ウィリアム・ザンジンガー-----24歳で
600エーカーのタバコ農場を所有し
資産家の両親から援助と保護を与えられ
メリーランド州の政界と特別なつきあいのあったこの男は
自分の行為にただ肩をすくめてみせ
罵り 嘲笑い 舌を顫わせ
ものの数分で 保釈金を積んで出てきた
だが あらゆる恐怖を論評し 恥辱を論理づけるあなたよ
顔からハンカチをはなしなさい
いまはまだ泣くときではない

 

ハッティ・キャロルは調理場の女給だった
彼女は51歳で 10人の子供を産んだ
皿を運び ゴミを捨て
テーブルの主賓席に坐ったことはおろか
テーブルの客たちと言葉を交わしたこともなく
ただテーブルの上の食べ物をかたづけ
そこらじゅうの灰皿を空けていた彼女が
すべての思いやりを滅ぼすよう定められ 運命づけられ
空中をすべり 部屋に降ってきた杖で
叩きのめされ 一撃のもとに殺された
彼女はウィリアム・ザンジンガーには何もしなかったのに...
だが あらゆる恐怖を論評し 恥辱を論理づけるあなたよ
顔からハンカチをはなしなさい
いまはまだ泣くときではない

 

名誉ある法廷で 判事は
すべては公平で 裁判は平等であり
判決が糸をひかれたり言い寄られたりすることもなく
ひとたび警官に追われ捕らえられた以上は
身分が高かろうが しかるべく扱われ
法の梯子には上下の区別はないことを示すために小槌を叩き
ただ衝動的に 何の警告も
何の理由もなく殺人を犯した者をにらみつけ
処罰と遺憾のために 断固として
マントの奥から 厳かで 明確に
ウィリアム・ザンジンガーに6ヶ月の刑を宣告した
だが あらゆる恐怖を論評し 恥辱を論理づけるあなたよ
ハンカチで顔を深く被いなさい
いまこそ泣くときだから

 

 

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