このアルバムを好きだという人は結構多いようで、実際にエリック・クラプトンなどはあるインタビューで「ディランの中で最も重要なレコード」だと言っています。
社会的なメッセージに満ちた曲が多く、一般的にはディランによるプロテスト・フォークの完成された形と言われていて、同じ意味でしょうが個人的には、ディランのヒューマニズム(博愛精神)が結実した非常にまとまりのある質の高いアルバム、と受けとめています。一言でいうなら、誠実さ、でしょうか。
音楽的にも、アメリカのさまざまな伝承音楽のメロディを感じさせて、懐が深い一枚であるようにも思います。またレコードのライナーで中村とうよう氏が「このアルバムでの歌い方は、ディランのすべてのアルバムの中でも最高度の誠実さと繊細さを示している。世に自作自演のレコードというものは数多いけれども、このくらい作品と歌唱が完全にひとつのものになっている例は少ないだろう」と書いていて、珍しく的を射た評ですが(^^)、私もそれに同意します。
私はフォーク時代のディランから入っていったので、ディランの真摯な「語り口」がとにかく好きでした。おそらく電話帳を歌っていたとしたも、心地よく聴いていたことでしょう(^^) このアルバムでも
Ballad Of Hollis Brown
や North Country Blues
などの「語り部」としてのディランに惹かれていましたし、名曲
The Lonesome
Death Of Hattie Carroll
はいつ聴いても胸を打たれたものです。
The Times They Are A-Changin' や
With God On Our Side
などは言わずもがなの名曲。When The Ship Comes In
の力強い歌唱でいつも勇気を貰いましたし、ディランが「やっつけ仕事」と後に言っているほとんど無伴奏のような
Restless Farewell なども大好きで、レコード歌詞の But It's
not to stand naked under unknowin' eyes....
のくだりには何故か赤線を引いています。座右の銘だったのでしょう(^^)
またここでは非常に素朴な形ですが、後のザ・バンドとのツアーでアレンジされ、ジョニー・キャッシュとも再演されたり「Hard
Rain」のライブでも豪快に歌われ、その後も歌い継がれている柔軟性に富んだ哀愁の名曲
One Too Many Mornings
も胸に沁みます。同じく切ないフェアウェル・ソングの
Boots Of Spanish
Leather
は、やっぱり太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の原曲(元ネタ)でしょうか(^^)
この頃のアウトテイクとしては、「Biograph」にメロディの魅力的な Percy's
Song、賛美歌のような美しい歌詞の Lay Down Your Weary Tune
が、「Bootleg Series vol.1-3」に Walkin' Down The
Line / Walls Of Red Wing / Paths Of Victory / Talkin' John
Birch Paranoid Blues / Who Killed Davey Moore ? / Only A
Hobo / Moonshiner / When The Ship Comes In / The Times They
Are A-Changin' / Last Thoughts On Woody Guthrie / Seven
Curses / Eternal Circle / Suze (The Cough Song)
といった大量の未発表曲、ライブ音源、初期の別テイクが収録されています。
なかでも酒と薔薇と女の
Moonshiner
は個人的なお気に入り、そしてウディ・ガスリーに捧げられた長大なポエム・リーディングの
Last Thoughts On Woody Guthrie
はクラプトンが「ここにディランの人生のすべてが詰まっている」と絶賛した代物、ぜひお聴きあれ。
また When The Ship Comes In / The Times They Are
A-Changin'
のピアノ弾き語りの初期テイクも、曲のエッセンスが剥き出しにされたような一聴に値する名演です。特に前者については作曲過程のとても興味深いエピソードが「Bootleg Series
vol.1-3」のライナーにあるのですが、これも出来たら読んでみてください。
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