諸般の事情で残念ながら私は見れませんでしたが、2001年の来日公演に合わせて日本のみで発売された企画アルバムです。なんでも当初、日本側は最近のライブ・テイクを集めた内容にしたかったのが、ディラン側の要請で39年間のディランのライブ活動を俯瞰するこのような内容に変更されたらしい。まあ何はともあれ、全16曲中、6曲の未発表テイク、5曲の公式アルバム未収録曲が聴けるのは、こうした地域限定の企画ものにしては珍しく、ファンにしてはナカナカおいしいところではないかと思います。
アルバム既発テイクは上記の曲目リストに注釈を入れたので、それ以外の「目玉もの」を順番に説明すると、冒頭を飾るカントリー・タッチの軽快な
Somebody Touched Me
はブルーグラス/スピリチュアル・カントリーのトラディショル曲で2000年のライブから。2曲目から突然過去にタイム・トリップして、有名な黒人霊歌の
Wade In The Water
はディランが1961年に友人のアパートで録音した通称「ミネソタ・テープ」より。 素朴な語り口の
Handsome Molly は'62年録音のトラディショナル曲。To Ramona
は映画「ドント・ルック・バック」の舞台となった'65年イギリス・ツアーでの真摯な演奏。粋なアレンジが素晴らしい
It Ain't Me, Babe
は'75年のローリング・サンダー・レビューでの演奏で、映画「レナルド&クララ」のバックで一部が使われていました。アルバム「Shot Of Love」の中の作品 Dead Man, Dead Man
は同時期の'81年のテイクで、この頃のディランのパフォーマンスの質の高さを証明するタイトな好演だと思います。'97年の
Cold Irons Bound と続く'98年の Born In Time
は日本では企画ミニアルバムの、それぞれ「Love Sick 〜Dylan Alive
1」「Not
Dark Yet 〜Dylan
Alive2」に収録されたもの。珍しい「Nashville Skyline」の中の一曲 Country Pie
のミレニアム・バージョンは(おそらく)チャーリー・セクストンのギターが冴えるノリノリのロックンロールで、こちらまでうきうきしてくるようなシンプルな「軽み」。こういう演奏を聴くと、ああ、やっぱり女房子供を質に入れてでも来日公演へ行くべきだった、と今更ながらに悔やまれます。最後は同じ2000年ツアーからの、現時点では最新作
Things Have Changed の渋いテイクで。
こうして見るとアルバム・タイトルの「Thirty-nine years of great concert
performances」はちょっと大げさだなとも思うのですが、40年もひたすら歌い続けてディランは変わっているようで40年前も40年後のいまもちっとも変わっていない、偏屈で気まぐれで自分に忠実だ。ああやっぱりディランはディランだな、そんでもってやっぱりオレもオレなんだよ、40年なんて改めて気取るようなものでもないぜ、40年前もいまもここにいる、と訳の分からない独言を呟きつつ、今宵も私は焼酎のお湯割りを啜っていじけた頭ん中で奇妙なステップをヨタって踏むのでした。
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