Dignity
太った男は鋼の刃に
痩せた男は最後の食事に
虚ろな男は綿畑で
尊厳をさがしている
賢者は草の葉先に
若者は横切る影に
貧者は色鮮やかなガラスの向こうに
尊厳をさがしている
大晦日の夜に何者かが殺された
まず最初に奪われるのが尊厳だと 誰かが言っていた
都会にも行った 町にも行った
白夜の土地をも訪ねた
上をさがし 下をさがし
思いつく限りのところはすべてさがし
行く先々で警官に尋ねた
尊厳を見なかったか と
盲目の男がふと我にかえり
運命のポケットに両手をつっこみ
尊厳のひとかけらが
偶然に入ってやしないかと期待する
メリー・ルウの結婚式に出かけた
彼女いわく「あなたと話しているのを見られたくないの」
尊厳について知っていることを話したら
殺されてしまうのだという
ハゲタカが餌に群がるところへも降りていった
もっと深くへも行けたが そんな必要もなかった
天使のことばも人間のことばも聞いたが
たいした違いもないように思えた
冷たい風はカミソリの刃のように鋭く
家は燃え 借金は滞納
窓辺に立ち メイドにでも訊こうか
尊厳を見なかったか と
鏡で覆い尽くされたすし詰めの部屋で
酔っ払いの男が聞こえてくる声に耳を傾けながら
失われたかつての日々の尊厳を
追い求めている
ブルースの棲み家でフィリップ王子に会った
私の名を出さなければ とある情報を教えてくれた
かれは前金を要求し
尊厳のために自分は罵倒されたのだと言った
銀の砂地を走って横切る足跡が
やくざな土地へと下りかけている
国境の絶望の町で
光の子にも 闇の子にも会った
身をくらます場所もなく 外套もなく
荒れる川面でおんぼろボートに乗って
誰かが尊厳について記したものを読もうと
四苦八苦している
病人は医者の処方箋に
手の運命線に
文学名作集に
尊厳を探している
英国人が邪悪な風に途方に暮れている
後ろ髪を梳き 未来は心細く
腹を据えて 己を見つめる
尊厳のために
誰かが写真を見せてくれたが 笑うしかなかった
尊厳は写真などに写りはしない
赤の中へも 黒の中へも
干からびささくれた夢の谷間にも行った
たくさんの道 たくさんの危険
たくさんの行き止まりを経て いま湖の端っこにいる
時々 いったいどうして尊厳が見つからないのだろうかと
不思議に思う