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Down In The Groove 1988

アルバム・コメント

Side A
1. Let's Stick Together
2. When Did You Leave Heaven ?
3. Sally Sue Brown
4. Death Is Not The End
5. Had A Dream About You, Baby

Side B
1. Ugliest Girl In The World
2. Silvio
3. Ninety Miles An Hour (Down A Dead End Street)
4. Shenandoah
5. Rank Strangers To Me (Not Dylan's Song)

 

 

 

 

 

 

 '85年の「Empire Burlesque」以降のディランは '89年の「Oh Mercy」をつくるまで、どうもアルバム制作に意欲を失っていたというか、なかばアルバムなんてどうでもいいやという感じであったように思われます。アルバムなんぞ、ツアーの合間にこなす契約のためのやっつけ仕事のようなもの、と。ですからこのアルバムも前作「Knocked Out Loaded」と並び '80年代の低迷期を象徴するような作品と、ちまたの評価はもっぱら芳しくありません。

 全10曲中にグレイトフル・デッドの作詞家ロバート・ハンターとの共作が2曲( Ugliest Girl In The World、Silvio で、どちらもハンターの詞にディランが曲をつけたもの)、そしてディラン自身のオリジナルの他の2曲も、Death Is Not The End は「Infidels」からのお流れテイクだし、Had A Dream About You, Baby はかの駄作映画「Hearts Of Fire」のサントラ曲に若干手を加えて再収録されたもので、あとはすべてカバー曲。

 もともとディランのレコーディングは短期間にその場の雰囲気をつかみ取る一発録りのライブのような方法で、そうして数々の名作が生まれてきたわけですが、この頃は切れ切れの断片を寄り集めて一枚のアルバムにしたという感が否めず、アルバム全体のいつものシャープな息遣いが伝わってこないし、曲自体の個々のインパクトもチト弱いかな、と。

 しかしこのアルバム、ボブ・ディランという虚飾に満ちたペルソナを拭い捨て虚心坦懐にもう一度聴きなおしてみると、素朴で等身大の素直な歌声が響いてくるアルバムだということが分かります。意外とこの肌触りが悪くない。神秘のベールをまとった伝説は何もないけれど、老いを自覚し始めた農夫が日曜にいつものように教会へ行って祈りを捧げるような、そんな朴訥としたぬくもり。傑作ではないが傑作にはない親しみを感じる、そんな肩の力がふっと抜けた作品集のように感じています。少なくとも、ディランはここで自分を欺いてはいません。

 このアルバムからじんわりと透けてくる感情はずばり、不倫と疎外感、です。中年男女の危険な逢瀬を歌ったNinety Miles An Hour (Down A Dead End Street) (“時速140キロで行き止まりの道を突っ走る”)を、ある日ラジオで「イカしてる!」と言いながらブルーハーツのマーシーが流し、「不倫の歌をいつかディランに歌って貰いたいと思っていた」と雑誌のエッセイで友部正人が書いていました。

 またこの頃からディランがステージでたびたび歌ってきた Ricky Nelson の Lonesome Town や Ray Charles の That Lucky Old Sun のようにこの世でないどこか-----彼岸への予兆に満ちた悲痛な Rank Strangers To Me 。どちらもオリジナル以上にディランの真情が吐露された演奏で、ネイティブ・インディアンを歌ったシンプルな Shenandoah をはさむ後半のこれら3曲を通して聴く瞬間が、私はいちばん好きです。

 このアルバムが出た頃、遊びに来た長年の友人がたまたま流れてきた Silvio に耳をすまし、「まだ、死んでないな」とひとこと呟いたのをなぜかよく覚えています。この曲で登場するマンドリン(?)のプレイや、それにアルバム全体で使われている Staple Singers のようなディランの歪んだギターの音色もなんか好きだなあ...

 公式のアウト・テイクはありませんが、発売直前に別の2曲と差し替えられたというシンプルなリフの Got Love If You Want It と、オーソドックスなバラッドの Important Words が海賊盤で出回っています。また Sally Sue Brown で、スティーブ・ジョーンズとポール・シムノンというセックス・ピストルズ / クラッシュの意外なゲスト参加があるのも面白いところでしょうか。

  

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Death Is Not The End

 

 

友もなく ひとりぼっちで 悲嘆に暮れているとき
思い出して欲しい 死は終わりではない
崇めていたものが挫かれ 儘ならぬときも
思い出して欲しい 死は終わりではない

終わりではない 終わりではない
思い出して欲しい 死は終わりではない、と

 

見知らぬ四辻で 途方に暮れて立ちつくすとき
思い出して欲しい 死は終わりではない
夢が残らず潰え もう立ち上がれないようなとき
思い出して欲しい 死は終わりではない

終わりではない 終わりではない
思い出して欲しい 死は終わりではない、と

 

暗雲が立ちこめ 驟雨が襲いかかってきても 
思い出して欲しい 死は終わりではない
救いの手をさしのべ 慰めてくれる者が誰もいなくても
思い出して欲しい 死は終わりではない

終わりではない 終わりではない
思い出して欲しい 死は終わりではない、と

 

ああ、魂が涸れることのない地で
生命の樹が成長してゆく
暗い天空に
救いの輝きが満つる

 

肉体を舐めつくす炎が街々を覆うとき
思い出して欲しい 死は終わりではない
律法を遵守している人たちを見つけることができなくても
思い出して欲しい 死は終わりではない

終わりではない 終わりではない
思い出して欲しい 死は終わりではない、と

 

 

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Had A Dream About You, Baby

 

 

いいじゃないか おまえに会いたいんだ
どこでもいいから決めてくれ
おまえの夢を見たのさ
おまえの夢を見た
ゆうべ遅く おれの心にころがりこんできた

 

イカれたリズムでおまえは歩く
おまえが口を開けば おれはもうたじたじ
おまえの夢を見たのさ
おまえの夢を見た
ゆうべ遅く おれの心にころがりこんできた

 

ハイウェイで親指立てておれの車を止め
言ったもんだ “ねえ、近くの町まで乗っけてってよ”
おまえの夢を見たのさ
おまえの夢を見た
ゆうべ遅く おれの心にころがりこんできた

 

関節はがくがく
こいつはたまげた
血圧上昇
胸はどきどき
おまえのために散財し
神経いらいら
壁はばらばら

 

コーヒー・ショップでおれにキスするおまえ
まあ待ちな そんなに興奮するなよ
おまえの夢を見たのさ
おまえの夢を見た
ゆうべ遅く おれの心にころがりこんできた

 

頭にぼろを巻きつけ
消防車のような赤いドレスを着ているおまえ
おまえの夢を見たのさ
おまえの夢を見た
ゆうべ遅く おれの心にころがりこんできた

 

 

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Rank Strangers To Me

 

 

山あいのふるさとへ ふたたび迷い込んだ
知ってのとおり わたしが自由で仕合わせだったところ
ともだちを探したが 見つけられなかった
まったく見知らぬ人々ばかりだった

 

出会う誰もが まるで見知らぬ人々のよう
父や母 ひとりの友達にさえ会えなかった
みんなわたしの顔を知らないし わたしもかれらの顔を知らない
まったく見知らぬ人々ばかりだった

 

“あの人たちはみんな引っ越して行ったよ”
見知らぬひとりの声が言った
“明るく澄んだ海のそばの うつくしい岸辺へ”
いつか佳き日に 天国でみんなに会うだろう
そこでは わたしを知らぬ人は誰もいないだろう

 

出会う誰もが まるで見知らぬ人々のよう
父や母 ひとりの友達にさえ会えなかった
みんなわたしの顔を知らないし わたしもかれらの顔を知らない
まったく見知らぬ人々ばかりだった

 

 

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