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Real Live (live) 1984

アルバム・コメント 

Side A
1. Higway 61 Revisited
2. Maggie's Farm
3. I & I
4. License To Kill
5. It Ain't Me, Babe

Side B
1. Tangled Up In Blue
2. Masters Of War
3. Ballad Of A Thin Man
4. Girl From The North Country
5. Tombstone Blues

 

 

 

 

 

 

 

 充実作の「Infidels」を制作した翌年、1984年の5月から、ディランはひさしぶりにヨーロッパ各地をまわる約2ヶ月間のツアーに出ました。このライブ・アルバムは、そのツアーの最終日に近いロンドンのウェンブリー・スタジアムでの録音を中心に編まれたもので、当日は前座としてツアーに同行していたサンタナの他に、UB40、そしてクラプトン、プリテンダースのクリッシー・ハインド、ヴァン・モリソンなどがステージに上がりディランと共演したそうです。残念ながらその模様はここには収録されていませんが。

 ディランのライブ-----とくに'80年代以降のライブ・アルバムを聴くたびにいつも思うのは、どのような事情から録音日が決められ、その中からいったい誰が選曲をするのか知らないけれど、いつもどうにも間が抜けているなあ、という想いです。聴衆プレゼントのゲスト参加はともかく、コンサートの模様を詳細に紹介したいくつかのディラン本を読むと、このツアーの最中には同じ曲でももっと良い演奏があったし、もっと素晴らしい瞬間があった旨が書かれています。その中から、何故かたいていは平凡なできばえのテイクが選ばれてしまう。私も経験がありますが、海賊テープが出回る所以でしょう。だって、公式のライブ盤よりずっといい演奏が入っているのだから。

 ディランというアーティストは、その強烈な個性によって、一見何もかもをひとりでこなしてしまうように見られがちかも知れませんが、意外と周囲の環境に影響されやすい繊細な部分を持ち合わせているように私には思えます。「他との合作」が実は多いのです。ザ・バンドと出会わなければ「The Basement Tapes」も「John Wesely Harding」も生まれなかったでしょうし、'70年代なかばの独創的な活動はローリング・サンダー・レビューが象徴するように、同窓会のごとき多くの友人たちがディランの周りに集っていました。新しいところではダニエル・ラノワと組んだ二枚の渾身作もそうでしょう。'80年代以降のディランの低迷期は、実はロックそのものの低迷期ではなかったかと私には思われるくらいです。こうした「共同作業」は、実はディランの中で重要な要素を占めているように思います。

 このアルバムを退屈なものにしている最大の要因は、ずばり、バックのバンドだと私は思います。ベースとドラムスのリズム隊は欠伸が出るほど単調極まりないし、元ストーンズのミック・テイラーのギターはその上を酔っぱらいおやじの小便のようにだらだらと締まりなくたれ流している。おいおい、もっとしっかり仕事せえよ。ディランのステージの真骨頂は、過去のしがらみを捨て去って、常にその場限りの創造をとてつもないエネルギーとハートで生み出してゆく、そのスリリングな緊張感にあるのですが、バンドがこんな状態では、せいぜい家への手みやげにたこ焼きの包みをぶら下げて帰るのが精一杯です。要するにこのバンドには、ディランの個性とぶつかりあって火花を散らすような要素が何も見あたらないのです。

 ですからこのアルバムでの真の聞き所は、バンドの規制を受けないディランのソロのパートということになるでしょう。歌詞が大幅に書き直された Tangled Up In Blue は、この曲の持っている柔軟な魅力を再確認させると同時に、この自由の輝きに満ちた語り口はほんとうにディランにしか出来ないもので、この一曲だけでアルバムを買う価値が充分にあるでしょうし、また可憐な Girl From The North Country は、ものすごい名演というわけではないけれど、どこか一切の虚飾を脱ぎ捨てた質朴な味わい    裸のディランの心情が感じられるようで、ときとして、確信に満ちた力強いディランよりも身近なものを感じてしまうのは、果たして私だけでしょうか。

 

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