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Shot Of Love 1981

アルバム・コメント

Side A
1.Shot Of Love
2.Heart Of Mine
3.Property Of Jesus
4.Lenny Bruce
5.Watered-Down Love

Side B
1.Dead Man, Dead Man
2.In The Summertime
3.Trouble
4.every grain of sand

*Groom's Still Waiting At The Alter
シングルB面曲が、のちにCD盤に追加収録された。

 

 

 

 

 

 

 

 俗にいわれる“キリスト教三部作”の完結編ともいうべきこのアルバムは、'80年代の、たとえば次作の「Infidels」やその後の「Oh Mercy」などに比べると評価が著しく低いというか、どうも影の薄いアルバムに見られがちですが、実は私は、けっこう大好きな作品のひとつです。

 私はもともとディランのレコードに付いている解説は、ヘンに細部にこだわっていたり、的はずれだったり、あるいは逆に手放しで持ち上げすぎ(最近の菅野ヘッケル氏)だったりであまり信頼していないのですが、このアルバムのレコード盤に添えられていた天辰保文氏の評は、珍しくなかなか的確なものだと思っています。ちょっと引用します。

 この新作に関して言えば、ロックの気品というようなものを、ぼくは感じている。それは漠然としたものであり、ロックに対する姿勢とも呼ぶべきある種の認識にすぎないが、同時に、ロックの近代化を意味するほど素晴らしく、大きなものであるような気がしている。

 サウンド的にいえば南部の黒人音楽をベースにした、非常にずぶとく、骨太で、同時にどこか伸びやかなリズムと簡素なフレーズ、そして素朴な歌心が溢れ、あわせてそのごつごつとした感触のすき間から、やわらかな繊細さが自然とにじみ出てくるような、そんな感じでしょうか。

 それらを端的に表しているよい見本が、シングルとなった愛らしい Heart Of Mine のサウンドだと思います。ここでは天辰氏のいうように、セッション風の一見雑然としたごった煮的なリズムの中から、何とも Sweet なかぐわしさが匂い立ってくる。ディランの下手ウマのピアノもいい味を出しているし、特にこのどったんばったんしつつもヒューマンな温りある独得のリズムを刻めるのは、やはりジム・ケルトナーしかいないでしょう。そうしたすべてを含めて、この曲はディラン自身が理想とする魔法のサウンドを作り出しているような気がします。荒削りでいて、限りなくやわらかい。

 作品としても味わい深い曲が並んでいて、一方に Shot Of Love の贅肉をそぎ落とした簡潔なリフと張りつめた緊張感があり、もう一方の In The Summertime ではゆったりとしたランボーの歌う海にとけ込むような大きな喜びのうねりがあり、それらがアルバム全体を交差しています。個人的には麻薬の異常摂取で死んだ希有な風刺家を悼んだ Lenny Bruce も好きですし、またラストをしめくくる非常に荘厳で告白的な every grain of sand は、ある意味でディランの偽りなき裸心の結晶ともいうべき歌でしょう。旅路の果てに立っている、ひそやかな墓碑銘と言ってもいい。自身の宗教的告白に対する嘲笑に身構えいたディランが、ここではもうそんなことすらどうでもよいと静かに諦念して、ただ己の心にだけ耳をすまし(but I'm listening only to my heart) 対峙しています。

 おそらくディランがこのアルバムで目指したのは、大衆的な新しいロックの形、のようなものだったと私は思います。同時にもっと内的な意味でいうなら、世俗的なモラルのようなもの。山の頂で思索を重ねてきたツァラトゥストラが地上に降りてきて、路上の野菜くずやボロ切れのようなもののひとつひとつに神の雛形を見出し、それらとともに歩み始めるような、そのような精神のあり方。そのかれの狙いは、見事にここで結実していると思います。

 ディランはここで「'80年代の新しいBlonde On Blonde」をつくったのです。それは素朴で豊かで、雑然としていてまとまりがあり、粗く繊細で、喜びに弾みかなしみに跪き、河原の石ころや鍋や釜のような、そんな音楽です。

 ゲスト参加としては、前述した Heart Of Mine にリンゴ・スターやロン・ウッドなど、またいくつかの曲でハートブレイカーズのベモント・テンチがキーボードを弾いているようです。ほぼ全曲で、トム・ウェイツのアルバムなどでも知られるフレッド・タケットのごっついギター・プレイが聴けるのも味わいどころ、かな。

 このアルバムが発表される以前、ディランがLP3枚組の新作を考えているといううわさが一時流れたそうです。実際に当時、ディランはそれに見合うだけの大量の(しかも充実した)作品のストックを抱えていて、アルバムに収録されなかったそれらの素晴らしい作品の数々は、後に別の企画などで公表されていますので、ぜひそちらの方も聴いてみてください。

 「Biograph」には、暑い真夏の白昼夢を歌ったような、溌剌として魅力的なサウンドの Caribbean Wind と、Heart Of Mine のこちらもみずみずしいライブ・バージョンが収録されています。またアメリカではシングルのB面として発売されたソリッドな Groom's Still Waiting At The Alter も入っていますが、これは後にアルバムのCD盤に追加収録されました。

 「bootleg series vol.1-3」には、犬の鳴き声も入っている素朴な every grain of sand のレア・バージョン、たたみかけるような迫真に満ちたサウンドの You Changed My Life、ライ・クーダーもカバーした(Ry Cooder「The Slide Area」) 南部的な重量感のある Need A Woman、シュールな長編映画のようなこれも聴き応えのある素晴らしい Angelina、などが収録されています。

 

 

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Heart Of Mine

 

 

じっとしていろ おれのこころ
火遊びもいいが つけがまわってこよう
彼女には知らせるな
おまえが愛しているとは知らせるな
愚か者になるな 盲目になるな
おれのこころ

 

さあ、家へかえろう おれのこころ
うろつく理由も さまよう理由もありゃしない
彼女には気づかせるな
おまえが必要としているとは気づかせるな
一線を越えるべからず
おれのこころ

 

古巣へもどれ おれのこころ
彼女を受け入れたらくるしむだけ
彼女には聞かせるな
おまえが求めているとは聞かせるな
素敵だと想っているとは思わせるな
おれのこころ

 

承知のはずだ おれのこころ
彼女が誠実であろうはずはないし
おまえの愛など どうせほかの男にくれちまうだけさ
彼女にはおしえるな
おまえの行き先はおしえるな
結わえたひもをほどくなかれ
おれのこころ

 

悪意に満ち 腹黒さたっぷりの おれのこころ
1インチ与えたら 1マイル奪うようなやつ
自堕落になるな
つまずくな
刑務所暮らしに自信がないなら ばかな真似はやめておけ
おれのこころ

 

 

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Lenny Bruce

 

 

レニー・ブルースは死んだが その魂は生き続けている
ゴールデン・グローブ賞の類を貰ったことはないし、シナノンと同衾したこともなかった *注1
まこと かれはこの世のはぐれ者
あんたでは及びもつかないはぐれ者だった
レニー・ブルースは逝っちまったが その精神はいまも生き続けている

 

問題はあったろうし 解決できないこともあったろう
だがおもしろいやつで 真実を話し 何を喋っているのかちゃんと分かっていた
教会を略奪したり 赤ん坊の首を切り離したりなどはしなかった
人々を高みへひきあげ かれらのベッドを光で照らした
かれは彼岸にいる もう生きていたくなかったのだ

 

レニー・ブルースは死んだが 犯罪を犯したわけではない
その洞察力のために あまりに早く蓋をこじ開けてしまったのだ
一度 タクシーに乗り合わせたことがあった
わずか一マイル半ほどの距離が まるで二ヶ月もかかったような気がしたものだ
レニー・ブルースは自分を殺した連中のように先へすすみ 逝っちまった

 

規則に従わないから イカれているんだ、とみんなは言った
だがかれは 当時の賢者がいかに愚かであるかを見せてくれたのだ
シャツやズボンにするように みんなはかれを踏みつけ レッテルを貼りつけた
かれが闘ったのは勝者が傷つく戦場だった
レニー・ブルースは悪者 あんたにはもてっこない兄弟さ

 

 

*注1.Synanon.......アメリカで断酒を目的とした霊的成長を目指す自助・回復グループAA(アルコホリックス・アノニマス)より派生した、薬物依存者を主な対象にしたグループで、後に「神格化した個人が族生し、数々の銅像や肖像面が崇められ、一部は明瞭にカルト化し、一時は犯罪の温床とさえ見られた」という。斉藤学メッセージ・薬物依存と精神療法を参考にした。

 

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In The Summertime

 

 

一時間であったか一日であったか まったく分からないが
きみの目の前にぼくはいた
海がやわらかに輝き
木々が低く垂れ 日の沈まないところ

 

ぼくがしたことも しなかったことも
また隠してきたことも きみはみんな尊重してくれた
きみの視界からすべてを追い払おうとして
ぼくは必死になっていた

 

あの夏のひととき ああ、あの夏のひととき
きみがぼくといたあの夏のひととき

 

こころはぼくに 生命(いのち)はきみに
ぼくらは鉄を断ち切り 泥を突き進んだ
やがて すべての人を解き放つ
洪水前の朝を迎えた

 

おろかな人たちは罪を誹(そし)
ぼくらの忠誠を 説き伏せようとした
きみはぼくのどんな親類よりも近くにいたのに
かれらは知ろうとも理解しようともしなかったんだ

 

あの夏のひととき ああ、あの夏のひととき
きみがぼくといたあの夏のひととき

 

よそ者がぼくたちのことに口をはさんできた
まずしく 恥ずかしい連中だった
でもどんな苦しみでさえ
あるべき栄光と比べることはできない

 

きみがくれた贈り物は いつも肌身離さず持っている
いまではぼくの身体の一部で 大切に保管されている
きっと 墓の中までいっしょに行くだろう
そして永遠まで

 

あの夏のひととき ああ、あの夏のひととき
きみがぼくといたあの夏のひととき

 

 

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every grain of sand

 

 

告解の時きたり 必要の時せまり
足元のなみだの淵が 生まれたばかりの種を押し流すとき
私の中で死にかけた声がする むなしく手を伸ばし
追いつめられ 絶望した道徳(モラル)に苦しみもがく声が
“過去の失敗をふりかえる癖はやめなさい
カインの如く、汝はいま 断ち切らねばならない鎖の連なりを目にしている”
激しい怒りの瞬間に 神の御手が見える
風にそよぐ草の葉に すべての砂のひと粒に

 

おお、放埒な花々よ 過ぎし日の雑草よ
まるで罪あるもののように それらの良心も気力もすでに息を詰まらせてしまった
太陽が時の階段にふりそそぎ 私の行手を照らし
無為の苦痛と崩壊の記憶をやわらげてくれる
誘惑の怒り狂った炎の戸口を私は見つめる
そこを通るたびにいつも 自分の名を呼ばれるように思う
いつか、旅の先で 私は知らされることだろう
すべての砂のひと粒に等しく すべての髪も数えられている、と *注1

 

夜の悲しみの中で 私はボロから富へとかわった
夏の夢にふりまわされ 冬の光に凍てつき
空間にかすむ苦いわびしさに舞い
忘却の顔を映し出す砕けた純真の鏡の前で
海のうねりにも似た古の足音が私には聞こえる
ふりむくと、ときには誰かがいる ときには私ひとりきり
人間という名の不確かな現実に 私はぶらさがっている
すべての雀が墜ちるように すべての砂のひと粒のように *注2

 

*注1. every hair is numbered /注2 every sparrow falling.......マタイ伝10章に「二羽の雀が1アサリオンで売られているが、その一羽さえ、父の許しがなければ地に落ちることはない。そのようにあなたたちも、髪の毛一本に至るまで、神は数えておられる」とある。

 

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