TOP | Song index | Album index

 

 

New morning 1970

アルバム・コメント 

Side A
1. If Not For You
2. Day Of The Locusts
3. Time Passes Slowly
4. Went To See The Gypsy
5. Winterlude
6. If Dogs Run Free

Side B
1. New Morning
2. Sign On The Window
3. One More Weekend
4. The Man In Me
5. Three Angels
6. Father Of Night

 

 

 

 

 

 

 

 問題作の「Self Portrait」からわずか4ヶ月後、困惑していたファンの元に急遽届けられたこのアルバムは、「いつものディランが帰ってきた」と手放しで迎えられ、一般的にも充実の復活作とされていますが、私はちょっと違う印象を持っています。ごく簡潔に、ひとことで言うならそれは、日溜まりの中の蝉の脱け殻、といった感じでしょうか。

 ジョージ・ハリスンやオリビア・ニュートン・ジョンなどのカバーでヒットした If Not For You は、まあ軽快なラブ・ソングだけど、ジョージにあげちゃえばってな程度の曲だし、アルバム・タイトル曲の New Morning もどこか無理が見えるし、ビート詩人風の朗読曲 Three Angels も中途半端な出来で、スキャットを加えたジャズ風の奇妙な If Dogs Run Free に至っては、まるで学園祭のお粗末な前衛劇といったところ。

 ディランは世間を得心させる、おそらく「Blonde On Blonde」のようなサウンドを狙ったのだけど、うまくいかなかった。何かが変わってしまった。できあがった音は、ただかつての自分を恐る恐るなぞってみただけの、力のない空虚なコピーのような音楽。そしてディランは実質、このアルバムの後、73年の「Planet Waves」まで沈黙を続けることになります。

 とはいってもそこはディラン、腐っても鯛、なかなかいい曲も幾つか入っていて、伸びやかでちょいとHな The Man In Me は、このアルバムの中ではいちばん輝いている名曲ではないかと思います。また、さびしい心像風景を歌った Sign On The Window は等身大の告白としてちょっぴり胸に来るものがあるし、Father Of Night の奇妙に不気味なピアノの響きも捨てがたい。それと可憐なワルツ調の Winterlude なども、個人的に結構好きなのですが。

 実は後日談として、当初はこのアルバムのバックにあのロジャー・マッギン率いる The Byrds が予定されていたという話もあるのですが、もし実現していたらどんなサウンドになっていたのでしょうか。聞いてみたかった気もします。

 この頃のディランは子供もじゃんじゃん生まれて、家庭的に幸福な時期であったように思います。あの名作「Blood On The Tracks」が家庭崩壊のさなかに作られ、その後宗教的世界へと突っ走っていくディランの姿を思い起こすと、やはり名作と苦悩は切り離せないものなのかとやや複雑な気持ちも覚えたりします。

 ニンゲン、いつもギンギンでもいられない。幸せな時があったっていいじゃねえか。そんな風に見るとこのアルバムも、朝起きて牛乳を飲むような、軽快で健康的な田舎生活のハッピー・ソング集のようで、それはそれで楽しめる一枚だとも思うのです。

 

目次へ

 

 

 

 

 

If Not For You

 

 

きみのためでなければ
ドアを見つけることなどできなかったし
床さえ目に入らなかったろう
悲しく憂鬱だったに違いない
きみのためでなければ

 

きみのためでなければ
夜どおし眠らず 横たわり
朝の光が射し込むのを待っていたことだろう
それさえ珍しいことでなかった
きみのためでなければ

 

きみのためでなければ
ぼくの空は落ちて
ひどいどしゃ降りだったろう
きみの愛がなければ とにかくどこにも行けやしない
きみのためでなければ 道に迷っていたろう
嘘でないことは知っているはず

 

きみのためでなければ
冬は春にならず
コマドリのさえずりも聴けなかった
何の手がかりも得られず
とにかく ほんとうらしく聞こえるものなど何もなかった
きみのためでなければ

 

 

目次へ

 

 

 

 

Went To See The Gypsy

 

 

大きなホテルに滞在中の
ジプシーに会いに行った
おれが来たのを見て、かれは微笑み
「おやまあ、これは、これは」と言った
部屋はまっ暗ですし詰め状態
明かりもひどく薄暗かった
「ご機嫌いかが」とかれはおれに言った
おれはおなじセリフをそっくりかれに返してやった

ちょいと電話をかけようと
ロビーへ降りていくと
可愛い踊り子がいて
叫び始めた
「ジプシーに会いに戻りなさい
かれはあなたを背後から動かし
あなたの恐怖を追い払い
あなたを鏡の向こうへ連れて行くことができます
かれはラス・ベガスでもできたし
ここでもやれるはずだから」

外では なみだの川の川面が
きらきらと輝いていた
おれは音楽に耳を傾け
それを遠くから見つめた

もうほとんど明け方近く
ジプシーに会いに戻った
部屋のドアは大きく開け放たれ
ジプシーは行ってしまったあとだった
そしてあの可愛い踊り子も
もはや見あたらなかった
それでおれは朝日が昇るのを眺めた
あの小さなミネソタの町から

 

 

目次へ

 

 

 

 

If Dogs Run Free

 

 

犬が自由に走れて、なぜぼくらはそうでないのか
下りゆく平原を横切って
わたしの耳は列車と雨
二頭のラバの交響曲を聴く

 

 

目次へ

 

 

 

Sign On The Window

 

 

窓辺の痕跡が“さみしい”とつぶやく
扉の痕跡が“来客はないようだ”と告げる
通りの痕跡が“おれはあんたのものじゃない”とうそぶく
玄関の痕跡が“三人なら大勢だ”と言う
玄関の痕跡が“三人なら大勢だ”と言う

 

彼女は男友達とカリフォルニアへ行ってしまった
二人があの調べを変えてしまった
ぼくの親友が言うことには “だから言わんこっちゃない
ブライトン娘はお月さんのようなもの
ブライトン娘はお月さんのようなもの”

 

どうやら雨になりそうだ
大通りは今夜はびしょ濡れに違いない
(みぞれ)でなければよいが.....

 

ユタに自分のための小屋を建てよう
妻を迎え ニジマスを釣り
自分をパパと呼んでくれる子供たちを持つ
大方そんなところに尽きるはず
大方そんなところに尽きるはず

 

 

目次へ

 

 

 

The Man In Me

 

 

ぼくの内なる男は たいていの仕事はこなすし
見返りなど ほとんど求めもしない
ぼくの内なる男にたどりつくために
きみのような女を手に入れよう

 

ドアのそこかしこに 嵐のまえぶれが押し寄せているが
もうそれらを受け取ることもないだろう
ぼくの内なる男を見出すために
きみみたいな女を手に入れよう

 

だが、ああ なんてすてきな気持ちだろう
きみがそばにいると分かっただけで
つま先から耳まで
ぼくのこころはめくるめく

 

ぼくの内なる男がときおり 見られることから隠れてしまいがちなのは
ただ自分が 何か機械のようなものになってしまいたくないから
ぼくの内なる男にたどりつくために
きみのような女を手に入れたのだから

 

 

目次へ

 

 

 

Father Of Night

 

 

夜の御父 昼の御父
暗やみを祓い給いし御父
鳥の飛翔を教え給いし御父
天高き虹を架け給いし者
孤独と苦痛の御父
愛の御父 そして雨の御父

 

昼の御父 夜の御父
黒の御父 白の御父
いと高き山嶽を築き給いし御父
天高き雲を創り給いし者
時の御父 夢の御父
川や小川を流し給いし御父

 

穀物の御父 小麦の御父
寒さの御父と暑さの御父
大気の御父 そして樹々の御父
われらが心と記憶に住み給いし御父
分刻みの御父 日々の御父
いと厳かに讃えられん御父

 

 

目次へ

 

 

 

TOP | Song index | Album index

 

banner