'72年にかのサム・ペキンパーが監督し、ディランの旧友でカントリー歌手のクリス・クリストファースンがビリー・ザ・キッドを主演したウェスタン映画のサウンド・トラックで、ディランが全曲を担当しました。

　一般にこのアルバムはあくまでサントラでしか過ぎず、唯一いまではクラシックとなった Knockin' On Heaven's Door (邦題・天国の扉)が目玉ぐらいにしか思われていないようです。実際にその B-2 とビリー・ザ・キッドを題材にしたテーマ曲以外のほとんどは生ギターを主調としたインストゥルメンタルなのですが、しかし私は、このアルバム全体がとても好きで、かつ評価しています。少なくとも前作の「New Morning」よりは中身のあるアルバムだ、と。

　以前にミッキー・ロークが主演した「ホームボーイ」という映画でクラプトンが手がけたサントラを、Neville Brothers のアーロン(だったかな?)が「とてもいいアルバムで毎日のように聴いている」とコメントしていたのを雑誌で読んだことがあります。私もそのサウンド・トラックが好きで、曲の一部を留守電のメッセージに使っているくらいなのですが(^^)

　とにかくこのサントラでディランは、ビリー・ザ・キッドという永遠の反逆者・自由人のイメージに仮託して、一枚の終わりのない曼陀羅のような音楽を試みたのだと思います。一見粗雑で退屈そうに聞こえるインスト曲もけっしてお手軽なやっつけ仕事ではなく、実にメキシカン・フレイバーたっぷりの野放図で繊細な楽曲で、私はこのCD版をリピートにして半日くらいかけっぱなしにして聴いていることがよくあります。

　バックには、かの The Byrds のロジャー・マッギンのほか、ジム・ケルトナーや、MG's のブッカーTなどが参加しています。

　また映画の方にもディランは、エイリアスという名のちょい役で出演し、すでに30歳だったのだけど何やら可愛い小僧のように映っています。編集を巡っていろいろあったらしく、何年か前にサム・ペキンパー自身が編集し直したビデオが出たという話も聞きました。

　

　

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Billy 1

　

　

川向こうの銃があんたに照準を合わせている
あんたをつけ狙う保安官は　捕まえたがっている
懸賞金稼ぎの連中も　あんたを狙っている
ビリー、やつらはあんたが自由なのが気にくわないのだ

　

ベランダで一晩中仮寝をしたり
農場で朝までカードを配ったりしながら
やつらはあんたをプーツ・ヒルに送る魂胆だ
ビリー、おれに背を向けないでくれ

　

どこかの美しいセニョリータと楽しみながら
暗い廊下へと彼女はあんたを誘い
メサの暗がりへあんたを迎える　(*注記)
ビリー、あんたは故郷からはるか遠く

　(*注記)　メサ........mesa. 頂上が平坦で周囲に急な崖をもつ地形のこと。アメリカ南西部やメキシコの乾燥地域に多い。

Knockin' 0n Heaven's Door

　

　

Mama　このバッジをはずしてくれ
もう使い道もない
ひどく暗くて　何も見えなくなってきた
まるで天国の扉を叩いているような感じ

ノック　ノック　天国の扉をノックする
ノック　ノック　天国の扉をノックする

　

Mama　おれの銃を地面に置いてくれ
もう撃つことができない
あの大きな暗雲が降りてきた
まるで天国の扉を叩いているような感じ

ノック　ノック　天国の扉をノックする
ノック　ノック　天国の扉をノックする

Billy 4

　

　

川向こうの銃があんたを追い立てる
あんたをつけ狙う保安官は　包囲するかのよう
懸賞金稼ぎがあんたの周りで小躍りしている
ビリー、やつらはあんたが自由なのが気にくわないのだ

　

ベランダで一晩中仮寝をしたり
農場のあたりうろついたりしながら
やつらはあんたをプーツ・ヒルに送る魂胆だ
ビリー、おれに背を向けないでくれ

　

気狂いじみた表情の　その心の奥底で物思いに浸っている
ケースには数本のライフルと弾丸の穴
いつだって多くの(銃の柄の)刻み目ともう4枚のエースを持っている
ビリー、あんたはたったひとりで勝負をする

　

どこかの美しいセニョリータと寝そべりながら
暗い寝室へと彼女はあんたを迎え
メサの暗がりへあんたを誘う
ビリー、あんたはたったひとりで行くんだな

　

パット・ギャレットがあんたの居所をつかんだという話だ
おかしいと思ったら片目を開けて眠るがいい
ほんの小さな物音も　雷鳴のように響くのだろう
奴の銃身からとどろく雷鳴のように

　

見知らぬよそ者がいつもこそこそと盗み見て
どこかの向こう見ずな愚か者があんたに好機をけしかけ
サン・ペドロあたりの年増の売春婦が言い寄るだろう
あんたの心と魂に

　

タルサから来た実業家はあんたにくたばって欲しくて
あんたをとっちめるためにミスター・ギャレットを雇った
友だちだった奴に追われる羽目になったからといって
そんなに落胆するなよ、ビリー

　

頼れるものといったら　あんたの女だけ
サンタ・フェでひとり買い
エル・パソでひとり撃ったのを覚えているだろ
ビリー、あんたはもう長いこと逃げ続けてきた

　

トゥラ・ローザあたりの裏通りか
あるいはリオ・パコスの渓谷できっと
風来坊の女たちがあんたの墓と小径を弄ぶことだろう
ビリー、あんたは故郷からはるか遠く

Billy 7

　

　

どこかの美しいセニョリータと夜を過ごせば
暗い廊下へと彼女はあんたを誘い
どこか淋しい暗がりであんたを迎えるだろう
ビリー、あんたは忌まわしいほどに故郷から遠く

　

パット・ギャレットがあんたの居所をつかんだという話だ
まどろむときには片目を開けて眠るがいい
ほんの小さな物音も　雷鳴のように響くのだろう
奴の銃身からとどろく雷鳴のように

　

きっと明日には　あんたは自分を取り戻し
悲しみを隠すためにどこかの酒場で一杯やり
借りものの時間を費やしながら
故郷へ帰る道のりを心に思い描くのだろう