068. 東近江・ハクモクレン 平尾智子展

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■068. 東近江・ハクモクレン 平尾智子展 (2018.9.15)

 




 材は椨(タブ)。タブは遡れば、タモ、タマ(魂)となるだろうか。イヌグス、タマグスともいわれるこの照葉樹林の代表的高木は、全国各地の鎮守の森に大 樹として坐する。万葉集で大伴家持が「磯の上の都万麻を見れば根を延へて年深からし神さびにけり」(磯の上にそびえ立つタブノキは根を深く広げて年数が経 ちなんと神々しいものだ)と歌った都万麻(ツママ)もまた、一説にはこのタブノキだと言われるそうだ。作家の話ではこの椨(タブ)はかつて琵琶湖の西岸、 高島市新旭町の西近江路である旧道沿いに建つ大國主神社の樹であったという。台風かなにかでその大木が倒れて、勿体ないと引き取った作家の当時の師匠の宮 大工が丸太のまま乾燥させたものを神社の材として使った。そのときの三角の端切れを大事にもっていた作家が、そこから頬ずりをしながら相対する不思議な狐 か狼(大神)かの二対の像を見つけ出し、ふたたびのいのちを彫琢したのだった。東近江・五個荘の「廃市」のような、大きな本堂の伽藍と植物に侵犯された朽 ちかけた邸宅が残るしずかな集落の展示会場で、娘がそれに出会ってタマ(魂)を寄り添わせた。そういえば作品は、寄り添うふたつの魂が天上に向かって唱和 しているようにも見える。南無阿弥陀仏だろうか。いや、そうではないだろう。そんな手垢にまみれたものよりも、もっとあたらしい、もっと原初的(アプリオ リ)な、まだ地上のだれもが聞いたことのない、氷の世界を溶かす呪文のようなうたにちがいない。いつかこの椨(タブ)が高々と枝を繁らせていた高島の神社 を訪ねてみたい、と父と娘は話したのだった。
2018.9.15

 

 

 

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