1987年の夏、グレイトフル・デッドの全米ツアーにおいて6カ所の会場で、Alone
& Together
と名づけられたディランとデッドのジョイント・ライブが行われました。
ディランは'70年代からデッドのギタリスト、ジェリー・ガルシアと親交があり、またグレイトフル・デッドもコンサートでよくディランの曲を取りあげています。最初は、え、ディランとデッド?
と奇異な思いもしましたが、古いトラディショナル・ナンバーなどが散りばめられたガルシアのソロ・プロジェクトなどを聞くと、古き良きアメリカ音楽の伝承者として、両者のつながりも成る程なという気もします。
さて、このアメリカの二大巨頭が組んだライブ・アルバム、私は長いことちょっとデキ・レースのようなものだなと、あまり評価していませんでした。デッドの演奏は露天風呂に入ってふやけてしまったような締まりのない音だし、ディランのボーカルも線が細くて頼りなさそう。まあ、一種のお祭りのようなものかな... と。
ところが最近、このコンサートのブートレッグCDを手に入れて、がらっと評価が一転しました。音質がかなり良いので、もしかしたら向こうのラジオなどで流された音源なのかも知れませんが、正規盤では下手なミキシングのためにこぶりでモコモコとしていたサウンドが、まったく別のライブの音のように蘇っている。デッドの演奏も太く逞しい矢倉のようで、ガルシアのギターも切れ味鮮やか、そしてディランの声もそんなバックの骨太なリズムに全身を気持ちよく委ねながら、実に生き生きとしていて輝いている。お、いいじゃないか、このライブ。こんな感触だったんだ...
加えてブートレッグの方は曲数が多いのも魅力的。列挙すると
The Times They Are A-Changin'/ Man Of Peace/ I'll Be Your
Baby Tonight/ John Brown/ I Want You/ Ballad Of A Thin Man/
Memphis Blues Again/ Queen Jane Approximately/ Chimes Of
Freedom/ All Along The Watchtower/ Knockin' On Heaven's Door
正規盤と同じ曲でも、こちらのテイクの方がラフでずっと迫力があります。
「Knocked Out
Loaded」「Down In The
Groove」とやや生気のないアルバムが続いていたディランにとって、このデッドとの企画はまさに「もう一度、息を吹き返した」、そんな起爆剤になったように思います。事実、ディラン自身、後のインタビューでデッドとのライブが自分にとって「ひとつのターニング・ポイントだった」と言って、こんなふうに振り返っています。
あの当時歌っていた歌をもっとよく見極められるようにしてくれたんだ。ぼくには歌うことさえままならなくなっていたからね。あの頃の曲の意味を自分で掴み取るのに苦労していた。歌の核心というのがね、どんどん自分から遠ざかっていくような気がしていたんだ。
でもデッドの連中は何の苦労もなく、あれらの曲にすごい意味を見出してくれた。かれらはぼくより曲のことをよく理解していると分かったんだ。
というわけで、これからこのライブ盤を聴こうと思っている人には申し訳ないけど、ぜひブートレッグ盤の方も見つけて聴いてみてください。個人的な意見としては、なるべく元のサウンドをいじらないラフなままの音処理をして、それからデッドの大陸的な悠久のリズムに身を浸すためにも、いっそ二枚組くらいで曲をたっぷり詰め込んでいたら、ずっと良いライブ・アルバムになっていたのではと惜しまれます。
そしてまた、このライブ・アルバムの次に登場するのが、あの稀代の名作「Oh
Mercy」であったことを考えると、ディランがこのデッドとの共演によって得たものの真価が、より一層明らかになってくるような気もします。
歌を「再発見」する喜びに満ちたディランの姿が、ここにあります。
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