ディラン若干20才のときの、記念すべきデビュー・アルバム。そして、私が初めて買ったディランのオリジナル・アルバムでした。
作家の処女作が後の作品の萌芽を孕んでいるように、レコードにも同じことが言えるのかも知れません。音楽的にはカントリーやゴスペル、民謡、黒人ブルース、といった若きディランが吸収してきた伝承音楽を背景に、内面的には死と孤独のネガティブな感情が特に際だっている一枚。はじめて聴いたときには、20才にして何と老成した声なのだろうと思いました。
ディランのオリジナルはわずか2曲ですが、敬愛するウディ・ガスリーに捧げた
Song To Woody
は出発点にふさわしく、自らの30周年記念コンサートの一曲目にこの歌を再演したことと併せて、音楽とは連綿と続くバトンの受け渡しなのだ、という思いがします。
またこのアルバムで特筆すべきは、後のレコードではあまり聴かれないかれの多彩なギター・プレイで、スライド・ギターなども披露していて、なかなか味のあるテクニシャンぶりが楽しめます。
個人的には前述の Song To
Woody 以外では、やはり劇的なアレンジが効いた The House
Of The Rising Sun や、叙情的な放浪ソングの
Man Of Constant
Sorrow、不気味な死の想念に彩られた迫真的な
See That My Grave
Is Kept Clean、そしてFreight Train Blues
のカントリー的な裏声を使ったのびやかな歌唱も結構好きでした。
全体的に、洗練さからはかけ離れた非常に泥臭い仕上がりで、そこに若きディランの自負とこだわりを見るような気がします。ディランという稀有な才能の種子が播かれた、ミミズや腐葉土たっぷりの土壌的アルバム、といえるでしょうか。
なお、このアルバムから後に The Animals が Baby Let Me
Follow You Down, The House Of The Rising Sun
を取りあげ、ロック・バージョンにアレンジしてヒットさせました。アパラチア地方の民謡歌
Pretty Peggy-O
は、ジョーン・バエズやサイモン&ガーファンクルなども歌っています。
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