012. 大阪・鶴橋へ関東大震災に於ける朝鮮人虐殺ドキュメンタリーを見に行く

背中からの未来 

 

 

■012. 大阪・鶴橋へ関東大震災に於ける朝鮮人虐殺ドキュメンタリーを見に行く


 

  帰宅してからなぜかどう仕様もないほどの睡魔に襲われ、書斎の床に寝そべるように眠ってしまった。鶴橋駅から数分、鶴橋本通商店街が南へ果てる「つるはし 交流広場 ぱだん」(主催:多民族共生人権センター)で関東大震災に於ける朝鮮人虐殺のドキュメンタリー・フィルムを見たのだ。1983年の「隠された爪 痕」(58分)、1986年の「払い下げられた朝鮮人〜関東大震災と習志野収容所」(53分)。そして若い頃にこれらの貴重な作品を撮影したいまは茨城県 に住む呉充功監督が30年後の続編として現在製作している「2013 ジェノダイド 93年の沈黙」(仮題)のパイロット版(18分)。「隠された爪痕」 はのっけから、なつかしい荒川の河川敷が現れる。中川が綾瀬川と併走する荒川と合流する手前、京成押上線が四つ木駅をすぎて橋をわたっていくあたりだ。パ ワー・ショベルが穴を掘り、古老たちの記憶をたよりに虐殺された朝鮮人の遺骨をさがしている。骨はみつからなかった。けれど兄を殺された大井町でホルモン 店を営む83歳のアボジは土手の上で日本人証言者のAさんの手をにぎり「くやしかったよ、ほんとうに」と思わず落涙する。「払い下げられた朝鮮人」は軍隊 によっていったん習志野の旧捕虜収容所に「保護」された朝鮮人の人々が「軍・警察当局が自分達の手を汚さずに不穏分子を始末」しようと近隣の自警団へ「払 い下げ」られ、殺害された経緯が古老たちによって語られる。「・・・どういうふうになって死んだ方がいいかって訊くと“目隠しして鉄砲で撃ってくれ”と   (中略)  ・・穴も6尺の三角の穴掘ってドンと撃ってポタッて穴ん中落っこちた」 虐殺は“ナギの原”なる集落の草地で行われた。宅地開発が進み住宅 が建ち並ぶ現在も、そこだけはいまも草地のまま残り、近くの曹洞宗の寺(千葉県八千代市高津・観音寺)の住職が法要をつづける卒塔婆が立つ。フィルムは韓 国の篤志家たちによる鐘堂が境内の片隅に、海をわたってきた部材や大工・瓦職人・塗り師などによって建てられていく様を映す。屋根には韓国のあちこちから 持ち寄った土が盛られた。この二つのフィルムを継ぐ「2013 ジェノダイド 93年の沈黙」(仮題)は、理由なく殺された人々の遺族を海をわたって探す 旅の記録だ。遺族といってもすでに孫の世代。それでもわずかな資料を頼りに尋ねれば、「日本人に殺されたということは聞いていたが、どこでどんな最後を迎 えたのかは知らなかった」と、遺骨もないから代わりに故人の服を入れたという土饅頭に手を添えて悔し泣きする孫の姿がある。こうして、語られるのはまだま しだ。慰霊碑が建てられるのはまだましだ。“ナギの原”の卒塔婆の文字もかつては「異国人」であった。それが「朝鮮人犠牲者」に代わった。「朝鮮人犠牲 者」に代わったのだけれど、誰が、誰によって、どのように殺されたのか、は何も記されない。熊野市にある紀州鉱山で強制労働をさせられ惨殺された朝鮮人労 働者もそうだ。かれらの亡骸がおそらく眠っている場所はいま「英国人兵士の墓」の化粧をほどこされ、自治体はいまも口を閉ざす。グアムもそうだ。日本軍が 惨殺した地元チャモロの人々の記憶の地には日本語の表記は何もないし、ガイド本も一切触れていない。この国には無数のいまだ語られぬ“ナギの原”が存在し ている。知っていて、語られない。みなが声をひそめ、口をつぐみ、奇妙な薄笑いの向うにながしてしまう。それがふつうの人々の「善意の顔をした悪意」だ。 かの津山三十人殺しで都井睦雄を幽鬼と化したものの正体だ。戦場で無残な死を死んでいった兵士たちは靖国なぞという国家的電通の広告媒体にされ、かたや虫 けらのように理由もなく惨殺された「異国人」はわたしたちの足元のそちこちにいまも深い恨と悲しみを抱いたまま捨てられ埋もれている。この国は、ほんとう に最低だ。

 

『隠された爪跡 関東大震災朝鮮人虐殺記録映画』 解説

1923年9月1日マグニチュード7.9の大地震が、関東地方をおそった。
死者10万人にもおよぶ関東大震災である。
この時、6500名以上の朝鮮人が軍隊、警察、そして日本の民衆の手によって殺されている
ことはあまり知られていない。
そのうえ、今なお遺骨が埋められている事実があった。
1982年9月、東京の荒川河川敷で地元の古老の証言をもとに、遺骨の発掘作業が始まった。
映画学校に通う朝鮮と日本の若者たちがカメラを持って駆けつけた。
真実が隠されてきた60年の歴史を、この映画は追う。
当時、押上に住んでいた曹仁承(チョ・インスン)さんはじめ、多くの証言が真実を語る。
この映画は隠されてきた歴史の爪跡を明らかにする貴重な記録映画である。
呉充功(オウ・チュウゴン)監督/58分/1983年

 

『払い下げられた朝鮮人 関東大震災と習志野収容所』 解説

関東大震災の時、事実無根の流言蜚語が朝鮮人に集中し、
官民による朝鮮人虐殺は、約6,500人以上の犠牲者を生んだ。
政府は「保護、収容」の名目で、各地で警察と軍隊を動員して、朝鮮人を強制的に集めた。
陸軍習志野収容所には、約3200人の朝鮮人が送り込まれていった。
しかし。軍は数名の朝鮮人を密かに連れ出しては殺害していた。
そして、隣接の村々にも朝鮮人を払い下げ、その受け取りを命じる。
受け取った村民たちは流言を信じて、虐殺に加担してしまった。
いまだ、虐殺された人数と行方は一部不明のままである。
映画は元自警団関係者、警察官、運良く助かった留学生の証言などを克明に映像化し、現
在でも残る流言蜚語の根の深さを問いかける
(呉充功(オウ・チュウゴン)監督/53分/1986年)

 

映画を観て  (今村昌平  映画監督)

 何と云っても、このドキュメンタリーの主役『アボジおじさん』が魅力的なのだ。
大井町のホルモン焼店主だそうだが、八十三歳とは思えぬ元気者だし、直情型で、心が素直に画面にとび出るタイプなのである。

大正十一年、大震災の前年に、『日本へ行けば白い飯が食える』と聞かされた22歳のアボジさんは、朝鮮の貧しい村から東京へやって来る。その一年後大震災がおき、朝鮮人虐殺にモロに捲き込まれ、兄を殺され、自らも傷害を受ける。

こ のドキュメンタリーは、アボジおじさんの拙い日本語による語りを軸に、数々の証言や、客観的な証拠を集め、この残虐行為は何故起きたのか? それは偶発的 なものであったのか? 若しかしたら、実は仕組まれたものではなかったのか? そしてこの事件に拘ろうと拘るまいと、今、我々日本人にとってそれはどんな 意味を持っているのか? を、ひたひたと問いつめてくる。

勿論アボジさんにとってこのショックは凄まじく、その後二十年間も、夜うなされたり暴れたりしたという。
終りに近く、殺された朝鮮人の死体を集めて焼いたり埋めたりした荒川べりに、日本人証言者の一人である老人Aさんとアボジさんが並んで立つ。Aさんは、意図的にかくされ、風化してゆく虐殺の事実を、子々孫々にまで語り伝えたいと云う。
アボジさんはAさんの手をとって泣く。『くやしかったよ……本当に』
決して論理的でない庶民の言葉で語られたこの記録の中で、最も感動的な部分であり、最も鋭く、我々を衝いて来るカットなのである。

私は、私の主宰する学院から、このような力強い映像を創るドキュメンタリストが出たことを心から誇らしく思う。
 

▼9月、東京の路上で
【75年後に掘り出された遺骨 習志野収容所で殺された人々】
http://tokyo1923-2013.blogspot.jp/2013/09/75.html

【1923年9月の四ッ木橋付近】
http://tokyo1923-2013.blogspot.jp/2013/09/19239.html 

▼ 田中正敬「関東大震災時の朝鮮人虐殺と地域における追悼・調査の活動と現状」pdf
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/669/669-02.pdf

▼一般社団法人 ほうせんか 関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会
http://moon.ap.teacup.com/housenka/

▼「旧四ツ木橋付近 関東大震災 朝鮮人虐殺事件地図」jpg
http://www.maroon.dti.ne.jp/housenka/map.html

▼政府によって徹底的に隠蔽された「関東大震災朝鮮人虐殺事件」の真相
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49733

▼[インタビュー]関東大震災虐殺後に遺された家族の歴史を映画に込める 3作目の映画を作る呉充功監督
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/22023.html

▼朝鮮人虐殺、今こそ伝える 「大震災犠牲者の遺言、残す」 在日韓国人2世、30年ぶり記録映画
http://digital.asahi.com/articles/DA3S13129745.html?rm=150

▼関東大震災と朝鮮人 悲劇はなぜ起きたのか 動画
https://www.youtube.com/watch?v=WOScKgu_P8o

▼【IWJ追跡検証レポート】『九月、東京の路上で』〜関東大震災・ジェノサイドの跡地を加藤直樹氏と歩く〜
第一部

▼関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任を問う会
https://www.shinsai-toukai.com/

関東大震災時の朝鮮人虐殺とは何か ―果たされていない国家・民衆責任―
https://www.shinsai-toukai.com/top-japanese-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81/

▼NPO法人 多民族共生人権教育センター
http://www.taminzoku.com/

2017.10.8



 

 

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