118. 「自立生活センターリングリング」主催のフリートークイベント「障害者と戦争」(ZOOM)

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■118. 「自立生活センターリングリング」主催のフリートークイベント「障害者と戦争」(ZOOM) (2022.6.26)





  
 
  大学時代の同級生で長年の友人である悦ちゃんが代表を務める障害者自立支援「自立生活センターリングリング」主催のフリートークイベント 「障害者と戦争」に昨日、ZOOMで参加させてもらった。今回のテーマは「沖縄の差別の歴史と今」で、沖縄出身のジャーナリスト・山城紀子さんの講演の合 間に、グループ別に分かれてフリー・トークをするというもの。参加者は十数人ほどだったろうか、障害者自身や介護に携わっている方がほとんどなので、フ リートークに於ける話はプライベートでもあり、ここに書くことは出来ない。かつて沖縄タイムスの記者であった山城さんは以前に「ヤン・バニング写真展 イ ンドネシアの日本軍「慰安婦」展」についての記事をFacebookでシェアしたことをあとで思い出した。2000年12月の女性国際戦犯法廷に海外の 「慰安婦」80人が参加したイベントについて、日本の主要メディアはほとんど何も掲載しなかった、と記していた。今回の話は最近、映画にもなった(原義和 監督『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』)沖縄での精神障害者を隔離する制度「私宅監置」の歴史と実態についてである。とくに興味深かったのは「弱 者であるからこそ(当時の)軍国主義に走ってしまう」ということ。弱者同士で互いを否定し、同調せざるを得なくなってしまう。戦後の荒廃で医者の数が圧倒 的に少なかったために制度化された沖縄の「私宅監置」の患者たちは、アメリカ占領下で皆保険がないために医療につながらず、重症化してから表に出てきた が、800人以上の精神障害者の死亡率は40〜60%ともいわれ、そのほとんどは栄養失調=餓死であったという。そのなかで患者自身が医師や身内を刺すよ うな事件なども起きたが、山城さんは「その加害者もじつは被害者でなかったか」と云う。加害者となった患者やその家族がどうなったか、その後の取材を許さ ないような雰囲気がいまもあるそうだ。もうひとつ印象的だったのは「じぶんがいくら息子に暴力をふるわれてもいいが、近所の目がいちばん心配だった」と語 る患者の母親のことばだ。差別・偏見が差別の実態を見せなくする。その母親はその後、内なる差別に気づき、すべてをオープンにするようになった。差別・偏 見からの解放は、併せて「国家」からの解放でもある。現在のウクライナの状況が物語るように、戦争こそが「差異」を剥き出しにする。それこそ極端に、暴力 的に。役に立つ者、立たない者が冷酷に選別される。件のやまゆり園の事件で植松死刑囚が語ったのはその冷酷な選別である。それはかれ個人にとどまらない、 事故で死んだ精神障害者の「いのちの値段」が健常者よりはるかに低く見積もられる保険会社の算定のように、いまやこの社会にしずかに蔓延する病理だ。人は 金銭や経済的価値でしかはかられない。ユダヤ人とおなじように、ロマ(かつての「ジプシー」)や障害者といった少数の弱者を殺戮したのはヒトラーのナチス だった。1939(昭和14)年、クナウアーという一人のナチ党員が、ライプチヒ大学病院で重度の障害を抱えて生まれたわが子の安楽死をヒトラーに直訴し た。「ヒトラーは随行医のカール・ブラントを派遣し、現場で安楽死が実行された」。以後、「重度の障害をもって生まれてきた児童や治癒見込みのない精神障 害者などに対する大規模な「安楽死」を実施する計画が、総統官房の内部(党と国家の案件を取り扱う第2局)で進められた」(小 俣和一郎『ナチズム期の「安楽死」作戦と障害者』)。ドイツ敗戦までの5年間で、およそ20万人の障害者が計画的に殺戮されたという。クナウアーがわが子 の殺人を国家に委ねた2年前の1937(昭和12)年は、辺見庸が描いたイクミナ(1937)の年である。4月に「四重苦」のヘレンケラーが日本に来日し て熱狂的に迎えられ国中が感動の渦に包まれたおなじ年の12月に、日本軍は占領した南京で殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くした。何も当時の政治家や軍人 や権力者たちに限らない。この奇妙な両極端の心性を抱えたまま、いちどもそれを直視することも反省することもないまま戦後80年が経過した。それがこの国 がわたしたち一人びとりが差別・偏見からも、「国家」からもいまだに解放されない理由ではないか。わたしたちはいまも、障害者の美談に感動した涙をぬぐっ たその手で弱者を縊り殺すのだ。

◆自立生活センターリングリング
http://www.ringring.bz/

◆「沖縄から考える」(11)在沖縄ジャーナリスト 山城紀子氏
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/33568/report

◆ナチズム期の「安楽死」作戦と障害者
https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n409/n409003.html

2022.6.26

 

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