114. 茶粥を炊く

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■114. 茶粥を炊く (2022.2.20)





  
 
  相変わらず茶粥の朝だおれは今日もどうにか生存している。茶粥もこれだけ毎日炊いていると、なんとなくじぶんのスタイルというものが決まってくる。茶粥に 関するバイブルともいうべき「茶粥・茶飯・奈良茶碗 全国に伝播した「奈良茶」の秘密」(鹿谷勲・淡交社)によると、おなじ奈良県内でも十津川、大塔、東 吉野、生駒と地域によってつくり方が異なる。米を洗うところ洗わないところ、強火のままいくところ弱火にするところ、塩を入れるところ入れないところ、さ し水をするところしないところ、さまざまだ。なんとなくいろいろと試してきて、わたしのスタイルはこんなところで定まっている。径25センチほどの鍋に水 をわりと目いっぱいで1.5リッターくらいか。薬缶で一袋みたいな市販紙パックのほうじ茶をぽいと放り込んで火を点ける。以前はきちんと茶袋(チャンブク ロ)に金沢で買ってきた加賀棒茶なんぞを入れていたのだが、毎日のことなので茶袋を洗うのが面倒だったり、加賀棒茶は割高だったりで、いつからかスーパー で売っているお徳用市販紙パックになった。もちろん、きちんと茶袋で良いほうじ茶を入れたら、やはりそちらの方が旨いに決まっているだろ。鍋の蓋をして、 お湯が沸いてきたら強火のまま、米を一合洗わずに投入する。一気に入れると吹きこぼれるので、様子を見ながら少しづつ。わが家のお米は画家で友人の福山さ んちから購入している極上近江米、これを五分搗きで精米している。吹きこぼれない程度に火加減はするが、基本は強火のままをキープ。投入した米が底に固ま るので、さいしょだけ一二度、お玉で底をさらうように一周させる。あとはひたすら吹きこぼれに注意しながら、ときどき灰汁をとりつづける。蓋はしない。そ うして15〜20分くらいだろうか恍惚としていてハッキリとは分からないが、水面のぶくぶくが細かい水泡から大きな泡になったあたりで火を止める。「茶 粥・茶飯・奈良茶碗」には「炊き上がりを見極めるひとつの目安として、「米が開く」「米のハナが咲く」という言い方をすることがある。これは強火で米を炊 くため、水分を吸収して米の表面がはち切れるようになることで、茶汁で炊くために破裂部分に色が染み込んで肉眼でも識別できるような状態になる」とある が、わたしの肉眼はなかなかこれを識別できなかったので、いまでは水泡の大きさを目安にしている。火を止めて、数分だけ蓋をして蒸らす。これは好みだと思 うが、わたしは何となく茶粥の米と茶汁がそのしばしの間ゆっくりと愛を語り合っているような気がして程よい程度に落ち着くのである。蒸らしている間に、小 皿に添えの漬物を乗せる。梅干し以外はすべて手作りで、最近は店頭で漬物を一切買わなくなった。最新作はスティック状に切った大根をゆかり・砂糖・お酢・ 鰹節で数日漬けたもの。お気に入りはきゅうりを味噌・みりん・砂糖で漬けたもの。むかし葬儀屋の下請けの花屋で働いていたときに山の景色がスバラシイ集落 の葬式で地元のおばあちゃんたちがおにぎりといっしょに用意してくれた田舎漬け、わたしの生涯でいちばんおいしかった漬物の記憶だがそれにちょっと近い。 食膳に漬物セットと箸を並べ、蓋をはずして茶碗に茶粥を、茶汁の下に粥が沈んでいるのでお玉をゆっくりと回しながら汁と米がほどよく混じるようにすくう。 熱々で食べる。合間にぼりぼりと漬物を喰う。たいてい三膳くらい、つれあいが休みでいっしょに食べるとちょうど半分づつで一合がなくなるが、一人だと半分 残るので、冷めてから容器に入れて冷蔵庫へ。一晩置いた茶粥はすっかり水分を吸って雑炊のようになるので、翌朝は温めてからシラスや鰹節やあればもずくな どを乗せて醤油をちょっぴりかけて食べたりすることが多い。いつか忘れ去られたような熊野山中の集落で中上健次の小説に出てくる路地のオバのようなばあ ちゃんたちが御詠歌を唱えながら炊いたオカイサンを食べてみたい。

◆「茶粥・茶飯・奈良茶碗 全国に伝播した「奈良茶」の秘密」
https://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/708dd50e925a6de76cd2aac7b7f805a8

◆おばあちゃんのきゅうり漬け
https://oceans-nadia.com/user/26/recipe/149075

◆【ぽりぽり大根3種類】切って漬けるだけ♪もはやおやつ!
https://www.youtube.com/watch?v=J7zIGrDsc88

 2022.2.20

 

 

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