098. 東京・神保町 GON Shinji Exhibition 含真治彫刻展

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■098. 東京・神保町 GON Shinji Exhibition 含真治彫刻展 (2020.12.10)

 




  
 
 夕暮れの九段下の坂をぶらぶらと下っていく男ふたり。約束の時間には早かったから雉子橋通り沿いのタリーズで珈琲、Sさんはコンビニへ煙草を買いに走っ た。こころふるえるものが共有されればそれがコモンになる。コモンには、だから物語が必要だ。時間になってさくら通りへ。硝子張りの扉が放たれた光の中に 含(Gon)さんが待っていた。やあ、どうぞどうぞ、やっとお会いできたと、柄にもなく握手などして。すっかり夜の帳が下りた神保町さくら通りの、その小 部屋だけが妙に明るく、不思議に華やいだ樹木の呼気に満ちている。それは作家の素朴な手刀、よく研がれた数本の手刀だけでなぞられた有機生命体のリズム だ。針金や石を呑み込み除(よ)けてねじれた造形を愛おしそうに語る。それは松、桜、欅、山毛欅(ブナ)。作品を語る含さんのことばを聞いていると、この 人は樹木の精ではないのかと思われてくる。多摩川の川べりで拾った流木は言祝ぐまれびと(来訪神)である。刃先が呼気を感じ、吸気をなぞる。含さんの彫り 上げた丸太のベッドはさぞ寝心地がいいことだろう。ひとにやさしいのではなく、大地天空にやさしい。「どれかひとつ、お好きなのを」  含さんに頂いてき た小品を家へ持ち帰って、若き行基が戒を授かった葛城山中の高宮廃寺跡でひろってきた古瓦の上に置いてみた。土と樹のあわひから8世紀行基の声が聞こえてきそうだ。
2020.12.10

 

 

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