082. 映画「野火」

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■082. 映画「野火」 (2019.11.14)

 




 

 昼下がり、映画「野火」を見た。 戦場での兵士の遺体処理、死者儀礼、霊魂の物象化、そんな本ばかりを読んでいるといつか白々と河原に屹立す る骨の夢まで見る。腹が裂け、脳漿が飛び散り、腕や足がもがれ、皮膚がめくれ、蛆が湧く映画のなかの兵士たちはだれもが平和な日常のなかでは滅多にないま さに野辺送りの死者儀礼とは真逆のだれにも看取られることもない無残な亡骸を野に晒して打ち棄てられるだけの「非業の死者」たちばかりだ。かれらが「うつ くしき眞砂(留魂砂)に天下った英霊」になったとはおれにはどうしても思われない。白骨は屹立したままどこへも辿ることもできぬ鬼となるだろう。その鬼か ら目を背けてうつくしき眞砂を白木の箱に入れ神として祀ることで手を打ったのがこの国の為政者たちでありおれたち卑しき臣民どもだ。その白木の箱を地面に 叩きつけて夢から醒めよ。流浪する鬼を呑み込め。眼裏から気泡のような黒い血を流せ。そして現在につらなるあらゆるからくりから脱出せよ。「野火」はふた たび近い。おれは喰らうよ。

2019.11.14

 

 

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