064. 板門店 南北首脳会談をテレビで見る

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■064. 板門店 南北首脳会談をテレビで見る (2018.4.27)

 




  軍事境界線を挟んだ板門店(パンムンジョム)に於ける、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長の二人の首脳 会談の模様をテレビやネット・ニュースの動画などで見続けた。軍事境界線を、ついしばらく前まではあわや戦争に突入かといった緊張のさなかにあった両国の トップが手をつないで行きつ戻りつしたり、終始笑顔でことばを交わしたりする光景を見るのは、わたし的にはオリンピックの中継なんぞより正直、わくわくし た。そしてその二人をモニターで見守るプレス・センターやソウル広場での韓国の人々のとてもうれしそうな表情が、こころに残った。みなが、今日は歴史的な 日だ、と興奮を隠せずにいた。だれもがとても輝いた顔で。一方、日本のNHKなどのニュースの報道は「非核化に向けた具体的なプロセスが明確でない」  「拉致問題について触れられていない」 「次にひかえた米朝会談を慎重に見届けたい」といった懐疑的な論調が目立った。「有識者」だとされる大学教授や、 「町の声」も全体的にそんなトーンであった。温度差を感じる。日本人であるわたしが、じぶんの国のテレビ・ニュースの論調にはなはだしい温度差を感じるの だ。まあ別段、いまに始まったことではないけれどね。思い起こせば一昨年の、偶然旅先で見つけた紀州鉱山での朝鮮人死亡者の隠蔽問題をきっかけに、三重県 の木本事件、関東大震災での朝鮮人虐殺、そしてつれあいの実家近くの砕石場にかつてあった朝鮮人飯場のこと、気がつけば足元・奈良でもあった生駒トンネル や柳生飛行場での強制労働、岸和田をはじめとする紡績工場での女工たち、在日朝鮮人問題、さらに慰安婦や女郎にされた女性たちなど、わたしは朝鮮半島をめ ぐるダーク・ツアーの重たい巡礼のさなかであった。わたしの机のまわりは知らず、そんな過酷な人生を通り過ぎた朝鮮の人たちに関する書籍や資料であふれ た。そのさなかに、今日の歴史的な場面に遭遇したのだ。ある意味、感無量であった。金正恩などまだまだ腹では何を考えているか分かったものじゃないぞと思 いながら、かれの話すことば、声の抑揚、仕草、表情などに、そういった思惑を超えた“にんげんのぬくもり”を感じたのだ。この国の政治家たちから完全に消 えうせて久しい“体温のあることば”だ。気に食わない人間を機関銃で粉々にした輩かも知れないが、歓迎ムードのかつての敵国のなかで「ひょっとして、平和 も悪くないかもな」とふと思っている男がいて、それはある一面に於いて、偽りのない素の部分であるような気がしたのだった。何より国家を分断され、家族・ 親類を引き離されてきた人々がよろこびに沸いている。それは信じていい、いや、それこそ信じなければいけないもののような気がしたのだった。拉致問題も大 事だろう。けれどおなじように、この国が朝鮮半島の無数の人々に対して行なってきた償いきれない歴史に対しても語られなければならない。「だれが、祖国 を、二つに分けてしまったのか」 かつてこの国のフォーク・グループが歌った曲にすら、わたしたちはまだまともに対峙すらしていない。過酷な鉱山の強制労 働で亡くなったいまでは名前すら分からない朝鮮人の墓は、いまだ「英国人兵士の墓」として祀られているのだ。それがわたしたちの国がわたしたち自身がして きた「歴史の清算」だ。「軍事境界線はみんなが踏めばいつかなくなるだろう」と金正恩が語り、「わたしたちはもう決して後にはもどらない」と文在寅が決意 し、それを見守る韓国の人々の顔が一様に輝いているのを見ながら、わたしは柄にもなく胸がいっぱいになり、同時にこころにあらたなくさびを打ち込まれたよ うな鋭い痛みを感じていた。よろこびにあふれる朝鮮の人々の顔の数だけ、わたしたちは自身の胸に手をあててひざまずかなければいけないのではないか。そう 思ったのだった。まわりを見てごらん。この日本という国はすっかり孤立してしまっているよわたしたちのこの国は。いつの間にかそうなってしまったんだよ。 自業自得だな。世界中がよろこびの予感につつまれているのに、わたしたちの国だけは、どこか別の惑星の住人たちのようだ。そのよろこびの中に入っていけな いんだよ。劇的な南北首脳会談のニュースが終われば、ついで登場する国内の報道は高級官僚のセクハラ事件や芸能人の未成年者に対する淫行事件といったもの ばかり。もう、どうでもいいようにすら思える。こんなしょぼくれた、小さな小さな国になっちまったんだよおれたちの国は。世界から相手にされないのも仕方 がないさ。そのくせいきりたったペニスだけはいまだに行き場をなくして暴走しているのだ。アジアの無数の女性たちを犯し嬲り切り刻んだどうしようもないペ ニスだ。障子に穴を開けても収まらないのなら、いっそすっぱり切断してしまえばいい。男はみな宦官尼になって、150年をもういちどやり直すか。それとも いっそ韓国に併合してもらって、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に首相を兼務してもらった方がいいかも知れない。かれらはみずからの大統領を弾劾し刑務所 送りにして、あたらしい大統領に希望を託したのだ。この国がそれとおなじことをしたいのなら、150年をやり直すしかない。この国は150年前に置き去り にされたんだよこの国だけね。

2018.4.27

 

 

 

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