042. 京都 「十一」

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■042. 京都 「十一」 (2016.7.6)

 






 

 仕事の所用で昼から京都・四条河原町へ出掛けた。祇園の鳥新でちょっと贅沢な親子丼を食べてから、出雲の阿国の像を子のラインに送ってやろうと四条大橋 のたもとへ来てみれば、暑さで肥大した臓腑にすっと沁み入るような不思議な声が流れてくる。あの世の見知らぬ母のもとで聴いた子守唄であったか、森の奥の 御嶽(ウタキ)でいまも響いている巫女の調べであったか。四条河原の橋のたもとで、一風変わった弦楽器を弾く男性のかたわらで歌う浴衣姿の女性を見たと き、わたしは出雲の阿国が現れたのかと一瞬、錯覚した。現世が、うらうらと立ち昇る陽炎にゆらいで、行き交う人々の姿がなにやらみな透けて見える。歌は、 河原かららあらあと立ち上がって、青い空をゆっくりと大きな弧を描いて転回してまた戻ってくる。そして無数の水滴のようにきらめいては爆ぜるのだ。わたし はいにしえの遺失物係の前でとおい目をして立ち続けている。鴨川をわたるわずかな風がまなじりに心地よい。

  しばらく聴いてから千円札を一枚、財布から取り出して歌姫の足元の籠に入れてCDを一枚頂いてきた。家に帰ってそんな話をしてから、娘と二人でCDを聴いた。

十一 @juuichi.11.eleven  メンバー: 辻 賢(チャプマンスティック) 鳥井 麗香(ヴォーカル) 佐野 拓生(ギターシンセ) 加藤 ダイキ(ドラム) 大谷 ヤスシ(キーボード) https://www.facebook.com/juuichi.11.eleven/

百年の祈り Single, Maxi https://www.amazon.co.jp/%E7%99%BE%E5%B9%B4%E3%81%AE%E7%A5%88%E3%82%8A-%E5%8D%81%E4%B8%80/dp/B01G50MDVM/ref=pd_rhf_gw_p_img_1?ie=UTF8&psc=1&refRID=BXGX9QSZCX59AQXRY528

https://www.youtube.com/watch?v=SrS_5ygurdE

2016.7.6

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 ちいさなパン屋ほどの空間のすみにオーク色のグランド・ピアノとドラムス・セット。4人掛けのカウンターと、ほかの空いたスペースに点在す る十数人分のささやかなテーブル席。暑い晴天の下の四条河原の橋のたもとで見たまぼろしを、今夜はこんな現世的な空間で、辛口のジンジャー・エールをとき おり喉に流しながら眺めている。しかも娘と二人だ。あの日、父が持ち帰ったCDを彼女も気に入って、いっしょに聴きに行きたい、と言ったのだった。四条河 原では無辺の空間にひろがり爆ぜ溶けていった音が、ここではまるで羊水の中で胎児が聴く母の鼓動のようにつましい空間を循環する。かれらの音楽は何に似て いるか。何にも似ていないが、いつかとおいむかしにどこかで聴いた。じぶんが深い山中の鉱物であったとき。やわらかな羊歯の葉に囲まれて風にふかれていた とき。あるいはじぶんがきらきらと光る砂を洗う水であったとき。自在な影をすべらせていく魚たちの背(せな)ごしに聴いたような気がする。何に似ているか と問われれば、そんな記憶がよみがえる心地がする。一時間はあっという間に過ぎてしまった。いちばん前のテーブル席に常連らしい盲(めしい)の若い男性が いた。かれは演奏の間ずっと、見えない目をひらいてゆっくりと頭を左右に振っていた。わたしたちには見えない音の粒子をつかまえていたのだろう。ある意味 わたしもおなじように、夢見心地で魂をふりながら音の向こうの何かに乗ろうとしていたのだった。

十一 juuichi  https://www.facebook.com/juuichi.11.eleven/

jazz live さうりる https://www.facebook.com/sumomo.nekoyanagi?pnref=lhc.friends&qsefr=1

 2016.7.17

 

 



 

 

 

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