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■092. 大阪・心斎橋 MU 「安藤榮作 彫刻展・Being」 (2020.9.18)
灯ともし頃の心斎橋に安藤さんの個展を見にいった。始原の石ころのような木っ端。さかなのような木っ端。見たことはないけれど、カンブリア紀のこの星の
ような生命のたまごたち。歴史の断層。氷の厚い塊にとじこめられた太古の空気のひだ。脳髄のような厨房ほどの空間をうろうろとあるきつかれてかたすみの丸
椅子にすわりこみ、ああ、ここはどんな場所だろうかとつぶやいた。一体のひとがたが、オレハコレダ、オマエハナンダ、と迫る。わたしはこたえられない。ど
うでもいい見てくれとこの世のパンばかりの皮を幾層もかぶって、わたしたちはじぶんが、かつてどんなかたちであったかすらもわすれてしまった。うごかない
ものたちが始原のいのちたちであった。所在なくうろつきまわるわたしたちは生暖かい硫黄の臭気のしみついた鳥獣剥製所のあわれな剥製であった。燃え上がる
花よ、鋳型に注がれた草よ、毛皮よ、鱗よ、遠いかなたの祭日よ、思い出せ。
2020.9.18
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