校長先生宛て手紙(新設教室のVOC(化学物質)検査等について)

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郡山市立○○小学校

○○校長先生 先生方各位

201271

○○ ○○6○組 ○○紫乃の父)

 

 過日はご多忙のところ、担任の先生共々真摯なご対応を頂き、ありがとうございます。

 このたびの一件について、改めて確認をさせて頂きます。

 校内に新しいパソコン・ルームが増築されました。これは従来の校舎に南北を挟まれた中庭のほぼいっぱいを使って建てられたもので、立地的にあまり風通しが良い場所とはいえません。書類によれば今年の4月に最終のVOC(建材等の化学物質)検査が行われ、5月あたりから本格的に使用が始まったようです。その頃に入室した私の娘が二度、クラスメートの皆と入室をして、二度とも「頭痛がし、吐きたいのだけれど吐けない」という状況になり、居たたまれずに室外へ出ては水を飲んでまた戻ってくるということを幾度か繰り返しました。ちなみにこれまで娘が、自宅を含め他の場所でそのような状態になったことはなく、今回の件もパソコン・ルームを出れば症状は収まりました。

  この話を娘より聞き、私たち夫婦でインターネット等であれこれ調べた結果、建材や接着剤等に含まれる化学物質が原因であるシック・スクールではないかと思い至りました。その中にはこんな新聞記事もありました。(※これは学校へも提出させていただきました) 特に妻は娘の症状がさらに進み、日常的にも支障の多い化学物質過敏症になることを懸念しました。

 

子供を苦しめる「シックスクール」 毎日新聞

◆原因物質変わり、対策後手に「シックハウスは過去の話」という声を聞く。建材から出る化学物質(VOC=揮発性有機化合物)で体調を崩すシックハウス症候群。確かに、規制がかけられたが、なくなったわけではない。決まった対策さえ取れば問題は起こらない、という誤解と過信がないだろうか。そんな思いから「消えないシックハウス」(くらしナビ面、1月17〜19日)を連載した。
特に、体重比で大人の2倍の空気を吸う子供への影響は深刻だ。耐震化の大規模改修が続く学校現場で、新たなシックスクールが発生している現実に目を向ける必要がある。

 この問題の取材を始めた10年ほど前、学校で不調を訴える子が相次いでいた。新改築後の学校で頭痛や発熱を起こし、ぜんそくがひどくなる。登校するとぐったりし、帰宅すると元気になる子もおり、怠けや不登校だと誤解されることも少なくなかった。頑張って登校して症状が悪化し、長い間学校に戻れなくなった子供たちにも会った。

 原因物質が規制されたのは02年。文部科学省は、学校の新改築時に空気中のホルムアルデヒド、
トルエン、キシレンなど4物質(現在は6物質)の測定を義務付け、濃度が基準値以下と確認後に引き渡しを受けると決めた。この対策により、生徒数十人が一斉に体調を崩すような事件は激減し、
私もシックスクールは過去の話になると思った。

 現実は違う。07年以降、北海道、宮城、東京、大阪、熊本などで被害の報道がある。

 注目すべき第一の点は、原因物質の変化だ。以前は「ホルムアルデヒドかトルエンが基準値を大幅に超過」というケースが大半だった。最近はアセトアルデヒド、テキサノールなど検査対象外の物質だったり、不明が多い。従来の対策で根絶はできないのだ。第二に、保護者がシックスクールを疑っても、被害者が少数だと否定されることも多いという問題がある。

学校側が口にするのは
「6物質を検査した」
「国の基準をクリアした建材を使っている」
「具合が悪いのはお宅だけです」−−。
発症者は無理解に苦しみ、時に仮病を疑われる。

◆受験や就職あきらめる子も

 連載では岩手県内の小学校の例を挙げた。専門医が「改修工事によるシックスクール」と判断したが、原因物質は今もわからない。この小学校は判明直後に換気を強化し、全児童の健康調査をした。

それでも結局、74人が不調を訴え、数人が泣く泣く転校したことを全国の教育関係者は心に刻んでほしい。

 難しいのは、子供が体調の変化を明確に伝えられないことだ。連載で内山巌雄・京都大名誉教授も
「以前のような激烈な症状がない」と指摘した。典型的な頭痛やのどの不調を、親は風邪だと思いがちだ。

 こうして兆候が見過ごされると、問題は深刻化しかねない。学校が好きで具合が悪くなっても登校する子も多い。化学物質を吸い続け、シックハウス症候群になる。重症化すれば回復に膨大な時間がかかり、思春期にわたって長く苦しむ子もいる。

 大阪府内の保育園で被害にあった子は、小学生になっても鼻水や倦怠(けんたい)感が取れないという。東京都内の小学校で同症候群になった女児は、薬の臭いに敏感になり、医薬系の職を目指すことをあきらめた。別の女子生徒は、3年以内に改修予定がある高校の受験をやめた。学校を選ぶ基準は学力の水準や校風でなく「説明会に行って、苦しくならなかった学校」だった。

 たとえ少数でも、何の落ち度もない子供たちが職業の選択肢や夢を壊される−−それがシックスクールの現実だ。

◆化学物質の総量、チェックが有効

 シックハウス問題に詳しい柳沢幸雄・東京大大学院教授は「数え切れないほど化学物質がある中で、
新たなシックハウスを防ぐにはTVOCをチェックすべきだ」と主張する。TVOCは規制外の化学物質も含む揮発性有機化合物の総量で、国は空気1立方メートル中400マイクログラムの暫定目標値も設けている。

 TVOC測定は、おおむね1校で10万円はかかるが、学校の新改築時に義務化すべきだと思う。
目標値を超えれば換気を強化し注意を呼びかけ、大幅超過なら使用延期も含めた対策が必要だ。

 シックスクールで苦しんだ児童の親たちが地元議会あてに書いた手紙の写しがある。

 「子供に何度『学校に戻りたい。友達と一緒に過ごしたい』と言われ、涙を流したでしょう」
「症状が出る子は転校すればよいのですか?」

 8年前のものだが、今シックスクールと闘う親の声と全く同じだ。対策は進んだが、被害者の悩みは何も変わっていない。国はその事実に目を向けてほしい。

(毎日新聞 2011225日 東京朝刊)

 

 この記事を持って後日に、私が校長室で校長先生と担任のT先生とお話をさせて頂いたのはご存知の通りです。そこで私は、文部科学省が学校環境衛生基準で義務付けているVOC(建材等の化学物質)検査が適正に行われたのか、行われているのであればその結果を見せて頂きたい、と要望しました。

  また併せてパソコン・ルームも見せて頂きました。教室一個分ほどのスペースに40台のPCとモニタがずらりと並んでいます。前述のとおり立地的には風通しが良いとは言えず、窓を開けても、南北どちらも既存の校舎が間近に迫っているため気分的にも閉塞感があるように感じられました。先生のお話では、まだ出来て間もないため利用の頻度は少なく、娘が入ったときも(おそらく)一週間ぶりに教室を使用した、ということでした。一週間、締め切っていた状態だったということです。四隅に換気扇が一つづつ、計四個設置されていましたが、ふだんは停めていて、教室を使用するときだけ動かすというご説明でした。又、先生ご自身も新築の建物に特有の独特の匂いがかなり濃厚に感じられる、というお話でした。部屋の隅に大型の扇風機が三台あり、夏場に使用するということでしたが、これを空気の循環に利用しても良いのではという提案をさせて頂きました。

       ところがこの換気扇については、工事終了後に施工業者より四個のうち一個を24時間動かして換気をするよう言われていたのを学校側で忘れて行っていなかった、とこの日の夕方に校長先生よりお電話で説明を頂きました。本日より24時間稼動させる、とのことでした。

 校長先生より、今回の件で保護者である私の方からも直接、教育委員会へ電話で要望してもらえたら・・・ ということでしたので、早速電話をして同じような内容を伝えました。教育委員会総務課のSさんが対応してくれました。その後、Sさんに改めて電話をして具体的に次の項目の提出をお願いしました。

 

@      VOC検査の結果

A      上記検査にかかった費用(内訳・・・適正な金額か?)

B      使用建材の一覧

 

数日後、校長先生を経由して、教育委員会総務課より以下の書類を頂きました。

 

 @「分析結果報告書」(VOC6項目の検査結果)

 A「製品安全データシート」(巾木糊、エコロイヤルセメント、NEWエコノール)

 B「出荷証明書」(NEWエコノール)

 

 これらについて、後日に私と教育委員会総務課のSさんとの間で(平日は私がなかなか休みがとれなかったため)電話による協議を幾度かさせて頂きました。延べ時間は累計三時間以上に及んだかと思います。

以下、それを踏まえて要点をまとめてみます。

  まず@の「分析結果報告書」については、なるほどきちんと測定結果の報告がされていますが、よく見ればこれは分析依頼を受けた大阪の滑ツ境分析センターが、今回のPCルームを受注した施工業者の大和リース鰍ノ宛てて報告した形となっています。しかも「試料採取者」の項には「依頼者採取による持込み」とあります。つまり施工業者が適正な施工をしたか調べる分析を、当事者の施工業者自身が試料採取を行い、持込みをして、分析結果の報告を受けているのです。分析結果に利害のある者に分析が委ねられている。これは常識で考えれば「公正適正な検査」とはとても言い難い。今回の原発事故で、そもそも原発を推進している経産省の下にその原発を規制する原子力安全・保安院があることの愚策が語られましたが、ここにもまさにおなじ構造があり、それを誰もおかしいと思わない現実がおなじようにあるわけです。

  次にAの「製品安全データシート」ですが、これはそのタイトルから私のような素人はつい、巾木糊やエコロイヤルセメント、NEWエコノールといった化学物質の疑いのある建材、塗料、接着剤等について「安全であることの証明」がされているデータなのかと思ってしまいがちですが、じつはそうではないことが今回判りました。

  一例をあげれば巾木糊の最初の「1.化学物質等及び会社情報」の中の「使用上の制限」に「JISA5536に基づくF☆☆☆☆製品でありますので、使用上の制限はありません。云々・・」といった表記があります。この「F☆☆☆☆製品」について教育委員会総務課のSさんははじめ電話口で、「それは化学物質がゼロということです」と私に説明しましたが、じつはこの「F」は今回のVOC6項目に含まれているホルムアルデヒドの「F」であり、「☆☆☆☆」(フォー・スターと読みます)はその含有量の程度を示す等級であり、「☆☆☆☆」はその中でいちばん含有量が低い等級レベルですが、けっしてSさんが説明されるような「化学物質がゼロ」を意味しているわけではないのです。低量ではあるがホルムアルデヒドは含まれている。しかも悪質な業者の中にはこのVOC検査を逃れるために、ホルムキャッチャーなるホルムアルデヒドの発生を一時的に抑える液体のホルムアルデヒド吸着剤を用いて結果、その効果が薄れた後の再検査で高濃度のホルムアルデヒドが検出された例もあるそうです。こうしたことはWeb等の情報を探せばいくらでも判ることなのに、これらの書類を実際に受け取っているSさんのような人が「F☆☆☆☆製品」の正しい意味すら知らないことに、私は正直驚かされました。

  Aの「製品安全データシート」については、そのあとも述べ8ページの長きにわたってこの製品に対する「危険有害性の要約」「組成及び成分情報」「応急処置」「火災時・漏出時の措置」等々の項目と説明が並んでいます。たとえば妊娠のラットやマウスを使った生殖毒性の実験(原液の吸入や口径投入)では胎児の死亡や奇形が見られたが、「信頼性のあるヒト暴露例のデータがない」、だからとりあえずは安全ですと(と暗にほのめかす)いったような具合です。そしてこれらの書類では、最後の枠外に【ご注意】という決まり文句が記載されています。

 

 【ご注意】

 記載内容は、現時点で入手できる資料、情報、データに基づいて作成しておりますが、記載のデータや評価に対しては、いなかる保証をなすものではありません。

 又、注意事項は通常の取り扱いを対象としたものであって、特別な取り扱いをする場合は用途・用法に適した安全対策を実施の上、お取り扱い願います。

 危険・有害性の評価は必ずしも充分ではないので、取り扱いには充分注意して下さい。

 これはとても不思議な文章で、おそらく日本語ではないと思います。「製品のさまざまな情報について8ページにわたって評価をしてきたが、その評価はいかなる保証をなすものでない。同じように危険や

有害性についての評価も充分でないから、充分に注意されよ」と言っているわけです。評価をするが、その評価は確かでない、というなら、ではこの「製品安全データシート」はなんのためのものなのか? これについて教育委員会総務課のSさんからは回答を頂けなかったので提出業者へ確認してもらったところ、この「製品安全データシート」はそもそも出荷時から製品に備えついてくる書類であって、元を辿れば運搬時の事故の際などに消防署や警察が対応する参考資料として添付が義務付けられるようになったものだとのこと。つまり「安全性を保証する書類」というわけではない、言ってみれば運搬や施工に関わる業者向けの添付資料に過ぎないということです。しかし「製品安全データシート」という名前と、如何にも専門的な記述の並んだ8ページにも及ぶその分量から、私たちは思わず「これは安全を証明しているものなんだろう」と思ってしまう。

  Bの「出荷証明書」については特に私が要請したものでもありませんが、それよりむしろ、「このような建材や塗料、接着剤等を使います」と提出された書類どおりのものが実際に施工現場に納品されて、使われているかどうか、現地での確認はされているのか、とSさんに質問しました。そこまではしていない、という返答でした。否、そこまでしなくてはいけませんか? と逆にこちらが問われる有様でした。受託業者が利益を出すために、提出書類とは異なる安い(危険な)建材等を混ぜたりした場合にノーチェックになるのではないか? とのこちらの問いに、「どこまでやっても、切りがないでしょう。仮に接着剤の缶の内容を入れ替えられていたりしたら、私たちには判りようもありませんし」との返答でした。これには唖然とさせられました。すでに監督者たる責任を投げているとしか言いようがありません。「切りがない」のではなく、子どもたちの安全のためにできることはなるべく何でもやっていく、というのが基本姿勢ではないのですか? と言わさせて頂きました。

  折りしも新聞に、名古屋市が発注した下水道工事をめぐって、市が委託業者に提出データの偽造を指示したという記事が載った頃でした。工事予定地の土壌がもともとフッ素やヒ素が高濃度に検出される一帯だったために、工費を抑える目的で別の地域の土壌検査の結果を流用するよう指示し、業者がそれに従ったという事件です。土壌の汚染が判明すれば、これを処理するための新たな予算が必要になるので見て見ぬふりをしたわけです。この事件については後の取材で「ほぼ同時期に周辺で発注した別の6件の工事に関する土壌検査で環境基準値を超えるフッ素やヒ素が計16地点で検出されながら、市がいずれも公表していなかった」ことが判明しています。自治体でさえもこのような体たらくですから、ましてや入札競争で価格を抑えられた民間業者たる施工者側が、少しでも経費を抑え、自らの利益を出すために、データを改竄し、使用建材を変更する、あるいは申告した建材に安価な粗悪品を混ぜて施工しようとする可能性がいつでも存在していることくらい、いまどきの小学生だって察しがつきます。じっさいに私は、京阪地域で小中学校の建設や補修工事の入札に参加している知り合いの業者から、そうした改竄による利益操作は業者間では自明のことであるという話を聞きました。かれら曰く、「教育委員会の人たちは滅多に施工現場を見に来ることもなく、書類だけ揃っていたら何も言わない」とのことです。

  今回の教育委員会総務課のSさんとの話し合いの後半で、私は具体的な提案のひとつとして「施工業者と利害関係のない第三者機関を教育委員会自らが選定して、その第三者機関が自ら試料を採取して持ち帰り分析し、それを直接教育委員会へ報告するという遣り方での、再検査を行って欲しい」と要望しました。数日後、Sさんより電話があり、「お父さんの仰る遣り方で再検査をすることにしました。ついてはお父さんにも試料採取の日に立ち会って頂けませんか?」と言われました。「私がお願いしたことですから勿論、立会いは仕事を都合してさせて頂きます。それでは今後もおなじような校舎の建設や増設の工事があった場合には、おなじような形で検査をしてもらえるわけですね?」と私が言うと、Sさんは、「いや、それは・・・」と受話器の向こうで困ったような声を出しますので、「現在の検査が公正でないという私の主張を理解してくれたから今回、再検査をしてくれるのではないんですか?」と訊くと、「いや、今回はお宅のお子さんがじっさいに気分が悪くなられた事例があったので、私どもでもそれを考慮して再検査を決めたわけです。今後の工事は、それはまた別の話で・・・」と仰います。「それはSさん、あなた、言っていることがおかしいでしょ」と私は思わず声を荒げました。「私の子どものことだけじゃなくて、いまの検査のシステムでは公正さに欠けるし、チェック機能も充分でないから改めて欲しい、というのが私のお願いしていることです。前回の検査方法に不備があったからもういちどやり直しますというのが今回の話であって、今回だけやり直して、次回からはまた従来の方法に戻るというのは筋が立たないでしょう。従来の方法を今後も続けるのであれば、検査方法に不備はないから再検査の必要はない、とあなたは言い切らなければいけない。判りますか? あなたの仰っていることは矛盾していますよ」

  どうもこの理屈がSさんにはなかなか理解して頂けなかったようで、「いや、業者も契約を交わしている以上、こちらも相手を信頼をしてお願いしているわけですから」、だから不正はあり得ない、といったようなことを言われます。あるいは再検査について、「もし再検査をして、異常が出なかったらどうしますか?」なぞといったことまで言われます。後者については私もさすがに少々カチンと来て、異常値が出るか出ないかは結果論で、検査の方法が公正さに欠けるからやり直してくれと言っているわけです。そうやって一つづつ潰していくしかないわけでしょ。まだそんな頓珍漢なことをあなたは言うわけですか」と呆れ果てました。

 「これまでの私との話をよく思い出して下さい」と私は言いました。私のVOC検査の結果要請に対してあなたが私に提出された「製品安全データシート」について、あなたはそこに記載された「F☆☆☆☆製品」の意味すら知らず、「安全評価は保証していない」という(日本語として体を成していない)【ご注意】の但し書きにもこれまで疑問を感じず、ただ受け取って判子をおしているだけで、しかもよくよく聞けばこの書類は業者向けの添付資料であって製品の安全を証明するものではなかったという。仮にこの「製品安全データシート」の内容を百歩譲ったとしても、ではこれらの提出された書類に記載された使用建材や塗料、接着剤等がじっさいにそのとおりに納品されて、じっさいにそのとおりのものが使われているかどうか、一度でも現場を見て確認をしたのかというと、それはしていないし、する時間もないし、する必要性も感じていない、と仰る。つまり、大量の書類だけがあって、何もじっさいに現場で確認されたものはないわけだ。そのような状況であるなら、今回話題になっているVOC検査はまさに子どもたちを守る最後の砦のようなものなのに、その最後の砦すら、検査結果に利害関係のある施工業者自身に丸投げで、いっさいをお任せしている。そんな状態で、もし、万が一ですよ、業者が儲けのためにデータを改竄して危険な化学物質を含んだ安い建材をたとえば半分でも混ぜて使ったりしたら、いまのシステムでいったい誰が、どうやって、それを知ることができるんですか? あなたはそれを気づくことができますか?」 Sさんは答えに窮して、黙ってしまわれました。

  今後の郡山市内の小学校に於けるVOC検査について「施工業者と利害関係のない第三者機関を教育委員会自らが選定して、その第三者機関が自ら試料を採取して持ち帰り分析し、それを直接教育委員会へ報告するという遣り方で査を行う」ことを約束して下さい、という私の要望を、(そこに辿り付くまで紆余曲折はあったにしろ)最終的にSさんは了承して下さいました。それを今後の契約の仕様書中に明文化してくれ、今後人事異動等で担当が変わっても引継ぎを行う、というものです。(但しこれの適用範囲はSさんの担当されている郡山市内の幼稚園と小中学校に限られ、保育所と養護学校は文部科学省でなく厚生労働省の所轄になるので難しいとのこと。「それは横の連携はとれないのですか?」と訊ましたが縦割り行政の壁は厚いとの説明で、私も不満ではありましたが、これ以上の要望は今回は断念することとしました) できたら次のどこかの契約の(修正された)仕様書コピーを確認のため後日に頂戴できないか? とSさんにお願いしましたが、「それはちょっと・・・」と仰るので、「判りました。ではその件については、私は“人間として”あなたを信頼しますから、必ず約束を守ってくださいね」と言い、Sさんも「約束は守ります」と答えてくださいました。

  以上のような経緯で、今回の南小学校のPCルームについては第三者機関による公正なVOC検査の再検査と、今後の他の教育現場に於ける工事の際に同じような(施工者側とは独立した)検査を行う旨を契約の中に明記することを、教育委員会として約束をして頂きました。この結果について、組織の一人として英断をして下さったSさんに、私は深い敬意を表したいと思います。Sさんも郡山市教育委員会の組織の一人であり、私は郡山市教育委員会という組織に疑問をぶつけ、苛立ち、ときに声も荒げたわけですが、Sさんは組織の一人として自身でできることの精一杯を今回示してくれたと、私は理解しています。必ずしも上品ではない私の対応に最後まで根気よく付き合ってくださったSさんに、私は感謝します。

※後日にSさんとのすり合わせにより、76日(金)の800よりPCルームの換気、1230に閉鎖をして試料の採取を前回とは別の分析機関(SさんがWebで自ら探された)が行い、両方の時間帯に私も立ち会うことをお約束しました。

  今回の件を通じて私が感じたのは、子どもたちの教育現場の環境や安全を守るためのシステムが、如何に粗雑で杜撰なものかという点です。危険な薬剤や化学物質が子どもたちの環境に違法に使われる危険に晒されながら、そもそも施工業者を監督する教育委員会の担当者の方も、おそらく人事異動などで数年毎に入れ替わりスペシャリストが育たない遠因もあるのでしょうが、知識があまりになさすぎる。そうしてかれらが重要視するのは、現場ではなく、書類です。必要な書類がきちんと揃ってさえいたら「認可」なわけです。先日の新聞に、アメリカの原子力規制委員会の検査官の記事がありました。日本の原子力安全・保安院の検査官は電力会社の提出する高さ10メートルに及ぶ膨大な検査書類の審査に追われてなかなか現場に足を運べないが、アメリカの原子力規制委員会の検査官は現場重視で、現場に常駐し、どこでもフリーに入れ、抜き打ち検査を行う、という比較記事でした。

 

 検査官に求められる資質はなにか。マーク・ミラー所長は「旺盛な好奇心」を挙げる。「ジャーナリストと一緒です。情報をうのみにせず道理があるか判断し、質問し、検証する」


 奈良林直・北海道大教授は指摘する。「日本も米国式の現場主義に改めないと国民の理解は得られない。いまの書類主義は明治時代のやり方です」


(朝日新聞 2011622日 朝刊)

 

 これは原子力発電所の検査に関する話ですが、なんと今回の件にもぴったりと当てはまる内容でしょう。

 

 またつい最近、新聞紙上を賑わせているVOC(化学物質)絡みの事件では、印刷会社で働く人に胆管がんの発生率が異常に多いというデータをある大学准教授が調べていて、その実態が徐々に明らかになってきた、というものがあります。これは印刷見本のインクを洗浄する洗浄剤に、ジクロロメタンと1、2ジクロロプロパンという科学物質が含まれていたことが洗浄剤の製造元への確認で判明し、これらはアメリカでのマウス実験で「いずれも肝腫瘍が増えた」というデータがあり、これが発ガンに関わっているのではないかということで、現在、厚生労働省が全国の印刷会社の調査をすすめています。ちなみにこの事件で指摘されている化学物質は、法的には販売を禁じられていません。

  この事件からも判るように、人間が作り出した科学物質は無数に存在して、なお日々増え、そして私たちの日常にふつうの顔をして氾濫しているわけですが、たとえマウスやラットを使った実験で腫瘍が増えたり、胎児が死んだりしても、それこそ今回の「製品安全データシート」がいみじくも書いているように「信頼性のあるヒト暴露例のデータがない」という記述で済まされてしまうわけです。そして「【ご注意】危険・有害性の評価は必ずしも充分ではないので、取り扱いには充分注意して下さい」です! 危険物質として調査され、認定され、使用が規制されるのはたくさんの人間にじっさいに害が及んでからです。実際にこの印刷会社の例でも既にがんで亡くなった人が複数いて、がんの発生率は通常の600倍という異常な数字が出ています。水俣病でも最近の石綿事件でも同じことですが、死んだ人は戻りません。

  そのような状況下に現実、私たちはいるわけですが、特に放射能でも化学物質でも大人より受ける影響が大きい子どもたちの教育環境を守るためのチェック機能が、残念ながら今回、私が見せて頂いて限りでは、ほとんど機能していない、と言わざるを得ません。それらの原因をひとつづつ突き詰めていくと、そこに見えてくるのは人手が足りないとか、時間がないとか、縦割り行政の弊害だとか、契約の事情だとか、担当が異なるだとか、予算の制約だとか、書類上は問題ないだとか、すべて大人の都合や理屈ばかりです。大人の都合や理屈のために子どもたちが危険に晒されているという状況に、私は怒りと苛立ちを覚えます。「あなたは書類の方を向いているんですか? 子どもたちの方を向いているんですか?」と私は何度かSさんに訊ねました。

 

ホルムアルデヒドの発散速度について、例えばこんなシックハウスについてのサイト上の説明文がありました。

 

式に表すと、何だかややこしい計算のように見えますが、中身は単純。

簡単にいうと、建物の用途や換気の回数によって決まる係数に、ホルムアルデヒド発散建材の使用面積(u)を乗じた数値が、その居室の床面積(u)以下になるようにしてくださいね、ということです。
 
ただ、実際の現場では使用制限がかからないF☆☆☆☆を使うことが当たり前のようになってきています。というのも、建築基準法が改正されてから、建材メーカーは内装材のほとんどを、規制対象外(F☆☆☆☆)となるように製造しているからです。建材メーカーが、商品が売れないと困るため、必死で努力している現われなのでしょう。

しかし、これには少なからず問題があります。建築基準法で規制しているのは、あくまでホルムアルデヒドなので、これに代わる化学物質なら規制の対象にはなりません。ホルムアルデヒドをゼロにしたからといって化学物質がゼロになっているわけではないのです(ここ要注意!)。
事実、ホルムアルデヒドの規制が厳しくなってから、その代替材となるアセトアルデヒドという化学物質が増加傾向にあるという報告もあります。
まさにイタチごっこを思わせるような話ですが、アセトアルデヒドはホルムアルデヒドと性質が似ており、シックハウス症候群を引き起こす原因物質の一つとされています。
このことからも分かるように、F☆☆☆☆の建材であれば必ず安全ということではないのです。

法律が整備されてもシックハウス症候群がなかなか減らない理由は、こういうところにあるのかもしれません。

シックハウス大事典 http://www.sick-house-daijiten.jpn.org/index.html

 

 私は冒頭に紹介した毎日新聞記事中で大学院教授が提言していた「数え切れないほど化学物質がある中で、新たなシックハウスを防ぐにはTVOCをチェックすべきだ」という意見に賛成です。TVOCとは「規制外の化学物質も含む揮発性有機化合物の総量」を量る検査で、国の指導による検査項目には入っていないが、より子どもたちの安全を考えるのであれば、私はこの総量検査を行うべきだと思います。ホルムアルデヒドの発散速度が5μg/uh 以下の「F☆☆☆☆製品」で満足するのではなく、より子どもたちの安全を考えるのであれば、それこそ化学物質ゼロの無垢の建材(もしじぶんが予算を気にせずに、じぶんの家族が安心して住めるマイホームを建てるために自由に選択できるとして選ぶような材料)を使うべきだと思います。それを考え、改善し、現実に反映させていくのが大人の責任ではないでしょうか。なんにせよ、換気をしなければ気分が悪くなるということ自体が、そもそも異常なことです。

  最後に、私は、これらのことを教育委員会にすべて委ねるのではなく、やはり子どもたちと常にいっしょにいる現場のすべての先生たちにも知って欲しいと思います。じぶんたちが子どもたちといっしょに授業をする環境が、どのように管理されているのか、いないのか、先生たちも知るべきだと私は思います。そして必要であれば私のように声をあげるべきだと思います。疑問をぶつけるべきだと思います。教育委員会より提示された書類を子ども経由で私に渡したとき、校長先生はその内容をご覧になったのでしょうか? ご覧になったのであれば私と同じように書類の内容に疑問を持たれたのでしょうか? そのことを教育委員会に質問をされたのでしょうか?

  繰り返しますが、大人の都合や理屈のために子どもたちが危険に晒されているという状況に、私は怒りと苛立ちを覚えます。今回、第三者機関による再検査と、以降の工事に於ける契約内容の改定について、教育委員会よりご理解とお約束を頂きましたが、私はそれですべてが解決したとは思っていません。今回のけっして穏やかでないSさんとの話し合いを経て、私も頂いた専門書類を拝見するために、仕事を終えて帰宅した深夜に主にインターネットを使って少なからぬ時間を調べものに費やしましたし、お相手を頂いたSさんも私の指摘を受けていろいろ勉強をされました(「F☆☆☆☆」の意味もはじめて理解されたわけです)。なかなか融通のきかない組織の中に於いてであっても、一人一人の意識が変わることによって、現実を少しづつでも変えていくことはできるのだと、私は信じています。

  この拙文及び今回の経緯をぜひすべての先生方に知って頂き、考えていただきたいと思います。

 

参考「製品安全データシート(巾木糊)」 PDF

 

 

 

2012.6.30 (ゴム消しより抜粋)

 

 

 

 

 

 

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